最新記事

株の基礎知識

「有事の円買い」は終わった? 新型コロナの景気後退懸念で変化の兆し

2020年3月5日(木)17時05分
山下耕太郎 ※株の窓口より転載

Andrii Sedykh-iStock.

<株価にも大きな影響を与える為替相場。日本円は長らく「安全通貨」としてリスク回避の局面では買われてきた。今、その流れに変化が起きているのかもしれない>

日本円はもはや「安全通貨」ではないのか?

2020年2月17日に内閣府が発表した2019年10~12月期の実質国内総生産(GDP)速報値は5四半期ぶりのマイナスとなり、前期比1.6%減、年率換算では6.3%減という数値に市場はショックを受けました。10月の消費税増税を控えた駆け込み需要の反動や、大型台風による影響が下押しの要因となったのです。

さらに、2020年になってから新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、2020年1~3月期GDPもマイナスになるのではないか、という懸念が高まっています。実際、米ゴールドマン・サックス証券はこの期間の日本の実質GDPの予測を、前期比年率0.3%増から0.3%減に下方修正しました。

実質GDPが2期連続でマイナス成長となれば、日本経済は景気後退局面となります。そうした懸念から、ドル円相場は2月20日に112.22円まで円安ドル高が進み、約10カ月ぶりの高値となりました。

kabumado20200305yen-chart1.png

特に19・20日の2日間だけ見ると、円の独歩安(円のみが売られたということ)となっており、ドルは比較的堅調に推移しています。日本円はこれまで「安全通貨」「低リスク通貨」と言われてきましたが、その地位が揺らぐのではないかという見方が出てきたのです。

そもそも、なぜ日本円は「安全通貨」なのか

2011年3月11日の東日本大震災で日本経済の景気後退リスクが高まったときでも、マーケットは「有事の円買い(円高)」との反応を示しました。しかし、今回の新型コロナウイルスによる景気後退懸念に対して、「有事の円売り(円安)」となりました。

このことから、為替市場で大きな地殻変動が起こった可能性が取り沙汰されました。つまり、「調達通貨」としての円の地位転落です。

欧米などに比べて相対的に低金利であった日本円は、長らくキャリートレードにおける調達通貨として機能してきました。つまり、リスクを取ってでもリターンを追求したいときは低金利通貨である円を売り、高金利通貨を買うことによって、金利差を稼ぐということです。

一方、地政学的リスクなどが高まってリスク回避の動きになると、先行き不透明感から、投資家は同じポジションを閉じる必要に迫られます。そこで、保有している高金利通貨を売り、売っていた円を買い戻すという行為に出るのです。

その結果、リスクオンの局面で円安が進み、リスクオフの局面では円高が進む(=有事の円買い)、という傾向が続いていました。

しかしながら、欧州中央銀行(ECB)が2019年9月にマイナス金利の深掘り(マイナス0.4%→マイナス0.5%)をするなど、すでに日本円は最低金利通貨ではありません。そのためキャリートレードを行う場合も、円ではなくユーロを売る市場参加者が増えていると考えられます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中