最新記事

資源

なぜサントリーは大阪市で家庭ゴミ回収を始めたのか? プラゴミ深刻化の影響とは

2019年12月25日(水)18時00分
兵頭 輝夏(東洋経済 記者) *東洋経済オンラインからの転載

こうした目標を達成するうえでの課題は、資源として利用できる状態のペットボトルをどのようにして集めるかだ。使用済みペットボトルは、家庭から出るものとコンビニや自販機など事業系から出るものの2種類がある。前者の多くは家庭で洗浄・分別され、比較的きれいなことが多く、「資源としての価値は事業系ゴミの2倍ほど」(サントリーの孫会社で、自販機管理を行うジャパンビバレッジ環境部の梶原章部長)という。

ただ家庭ゴミは、自治体で回収・分別が行われた後、競売にかけられるため、メーカーが一定量を安定的に確保することが難しい。サントリーが今回、使用済みペットボトルの直接回収に乗り出したのは、家庭から出るペットボトルを安定的に得るためにほかならない。

異物混入が後を絶たない自販機横のゴミ箱

reuter_20191225_164011.jpg

異物の混入が後を絶たない自販機横の「空容器回収ボックス」(記者撮影)

飲料メーカーの頭を悩ませているもう1つの課題が、自動販売機の隣に設置されている「空容器回収ボックス」だ。本来は販売したペットボトルを資源として回収する目的で設置されているが、異物の混入が後を絶たない。

「最近はコンビニも店舗の中にゴミ箱を置くようになり、テロ対策で公園のゴミ箱もなくなった。そのため、自販機横の回収ボックスにゴミが捨てられている。タピオカのカップが投入口をふさいで、本来入れるべきものが入れられないケースも多々ある」(ジャパンビバレッジの梶原氏)。

自販機横の回収ボックスは、メーカーなどの飲料団体が自主的に設置しているものだ。だが、その中に入れられたゴミの回収にかかる負担は大きい。市町村が設置する町中のゴミ箱が減った背景について、ある飲料メーカー関係者は「正直に言って、ゴミ箱を設置するのは自治体にとってコスト。テロ対策というが、(ゴミ箱が撤去された)きっかけは1995年の地下鉄サリン事件だと思う。これを機に、ゴミ箱を撤去する自治体が出てきた」と話す。町中にゴミを捨てる場所がなくなった結果、自販機横の回収ボックスにさまざまなゴミが増えることとなった。

異物とともに捨てられ、汚れたペットボトルは、飲料用の容器として再生することは衛生上難しい。サントリーによると、ほかのゴミによって汚れていたり、タバコなど異物が入っているペットボトルは焼却するしかないという。

飲料メーカーでつくる全国清涼飲料連合会の甲斐喜代美氏は「2019年4月から、ペットボトル以外のものを入れないように啓発するステッカーを貼っているが、効果が見られない。モラルの問題にも取り組む必要がある」と嘆く。

食品業界ではプラスチックから紙に包装素材を変えたり、生分解性プラスチックを導入する動きが進んでいる。ただ、環境省環境再生・資源循環局の井関勇一郎係長は「3R(リデュース、リユース、リサイクル)の順番が大事。そもそもの利用量を減らすことが大原則だからだ。そのため、生分解性などのリサイクルは最後の手段」と、強調する。

環境対策への取り組みは企業努力だけでは限界があり、消費者の理解が不可欠だ。そういった意味で、サントリーなど他社に先駆けて対策を強化する企業は、消費者にどこまで働き掛けられるかも求められている。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナが水上ドローン攻撃、「影の船団」タンカー

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、オスロに到着 授賞式に数

ワールド

プーチン氏、インドネシア大統領と会談 原子力部門で

ワールド

香港中銀が0.25%利下げ、米FRBに追随
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中