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生活苦から「ブラックバイト」に追い込まれる日本の学生

2015年11月25日(水)15時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

 日本の大学の学費が高額で、奨学金制度も貧弱であることを考えると、この問題は深刻だ。周知の通り日本の奨学金は名ばかりで、実質は返済義務のあるローンだ(最近では有利子化も進んでいる)。多額の借金を背負いたくないと学生は利用をためらい、やむなく過重なアルバイトに勤しむことになる。大学の学費が安く(または無償)、給付型の奨学金も充実しているヨーロッパ諸国ではあり得ないことだろう。

 こうした違いは、国が高等教育にどれほどカネをかけているかで生じる。高等教育の費用負担は、社会による違いが顕著で、その主体に着目すると公費型と私費型に分かれる。<図2>は、それを各国で比較したグラフだ。

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 公私の比重は社会によってかなり差が出ている。北欧諸国は、9割以上が公費で賄われている公費型。日本は私費のウェイトが高い私費型で、家計に負担を強いる「私」依存型の高等教育はそろそろ限界に達しつつあるのではないか。

 一般の買い物と同様、高等教育の利益は個人に回帰するのだから、その費用は本人が負担すべきだという考え方もある。しかし多くの人が高等教育を受けることで、高度な知識が普及し、教育に基づいた道徳心が増し、犯罪が減るなど社会にとっての利益も期待できる。

 そもそも教育は、私財ではなく公共財としての性格を持っている。能力と意志のある者には家庭の経済状況に関わりなく、その機会が保障されるべきという「教育の機会均等」の原則は、法律でも定められている(教育基本法第4条)。政府はそれを実現する義務があるが、実質ローンの奨学金だけで十分なわけがない。高等教育を私費負担に頼る構造は見直す時に来ている。

<資料:『日本大学学生生活実態調査』(2012年度)
     OECD『Education at a Glance 2015』

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[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]

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