最新記事

アップル

iPhone 6s、中国人は「ローズゴールド」がお好き

2015年9月24日(木)17時32分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

転売

 日本のアップル直営店では、どの携帯電話会社にも自由に乗り換え可能なSIMフリー機が販売されている。ところが昨年12月から約4カ月間にわたり販売が中止された。原因は中国の輸入代行業者による購入が殺到したためだ。

 日本で販売されているiPhoneも中国で販売されているiPhoneも、対応する周波数の違いなどはあるが基本的には同じ製品だ。なぜ日本から購入しようとするのだろうか。あまりの人気に中国で品薄になってしまったからという理由もあるが、それ以上に大きいのは価格の問題だ。

 円安の進行にアップルの価格改定が追いつかなかったことも大きいが、日本と中国のiPhoneの価格差には、税金の問題も少なくない。中国では税込みの価格しか表示されないためあまり意識されていないが、日本の消費税にあたる増値税が約17%と高額だ。都市建設税など他の税金もあり、その分小売価格が上昇している。iPhone 6sの価格(16GBモデル)を比較すると日本の8万6800円に対し、中国は5288元(約9万9500円)と約1万2000円もの開きがある。転売目的で中国本土に持ち込む場合、本来ならば関税を支払う必要があるが、これをごまかしてしまえば差額が利益として転がり込む。

爆買い

 この構図は中国人観光客による「爆買い」と共通している。ある調査によれば訪日中国人観光客一人当たりの消費額は約25万円と高額だが、なにも中国人がお金持ちだからではない。日本で買ったほうが圧倒的に安いからだ。中国製の商品でも日本で買ったほうが得となる。しかも、日本クオリティの検品がされているというおまけ付き。そのため親戚や友人から頼まれた品もあわせて、がんばって爆買いすることになる。

 関税を支払わない爆買いは明らかな脱税で、韓国から化粧品を大量に持ち込んだ中国人フライトアテンダントが脱税で有罪判決を受けた事例もある。しかし、摘発される確率はきわめて小さいだけに歯止めにはなっていないようだ。海外旅行時の爆買いだけではなく、ネットショッピングによるお取り寄せ、「越境EC」も同様の理由で人気である。

 まじめに税金を支払うと商売にならないというのでは、あまりにも切ない話である。中国政府もそのうち本気で対策をとるだろう。その時こそ、iPhone狂騒曲や爆買いといった中国ニュースの定番ネタが終わる時になるはずだ。

[執筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィッチ、ハンガリー格付け見通し引き下げ 総選挙控

ビジネス

10月経常収支は2兆8335億円の黒字=財務省

ワールド

中国機の安全阻害との指摘当たらず、今後も冷静かつ毅

ビジネス

バークレイズ、英資産運用大手エブリン買収を検討=関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中