最新記事

財政危機

財政削減しても報酬世界一、イタリア議員の厚顔

公務員に高い給与を払い続ければ、デフォルトに陥るのは時間の問題だ

2014年10月9日(木)17時12分
アリソン・ジャクソン

破産を待つばかり イタリア史上最年少の39歳で首相に就任したレンツィも改革には及び腰 Remo Casilli-Reuters

 秘書や補佐官、理容師から技術者に至るまで、イタリアの議会スタッフの給与が大幅に削られることになった。ユーロ圏第3位の経済を再生させるため、マッテォ・レンツィ首相が打ち出した財政再建策の一環だ。

 総勢2300人強の議会スタッフの給与カットは先日、上下両院で承認された。今後4年間に渡って約1億2300万ドルの人件費が削減されることになる。

 大幅カットと派手にぶち上げた割に削減額は微々たるものだ。EUが定める財政赤字の上限はGDP比3%。この基準をクリアするには、レンツィ政権は来年度予算を約250億ドル削減しなければならない。

 レンツィは冬眠状態の経済を活性化するため、減税、公共事業の拡大、失業保険の拡充を3本柱とする景気刺激策を掲げており、その財源も確保しなければならない。

 しかも、イタリアは2兆5000億ドル以上の公的債務を抱え、利払いに追われている。政府の債務残高は今年、GDP比137・7%に上る見込みで、イタリアはユーロ圏ではギリシャに次ぐ借金大国だ。

 議会スタッフの給与カットは、納税者の不満を逸らすためのお粗末なPRの色合いが濃い。それでも議会は今回の決定を画期的な偉業と自画自賛している。

「上下両院が手を携えて前例のない決定をした」と、ラウラ・ボルドリーニ下院議長は審議終了後に語った。「私たちがいま経験している重大な(経済)危機に照らして、(議会スタッフの)給与水準を国全体の水準に合わせるための決定だ」

 ところが当の議員たちの報酬はどうか。イタリア議員の報酬は国内の平均賃金の約5倍に当たり、ヨーロッパで最も高い。議会スタッフの給与も他の国々と比べれば格段に高く、削減が実施されても、事情はあまり変わらない。

 たとえば、長年議会で働いてきた理容師の給与は、年間で4万7000ドル削られて、最高12万5000ドルになる。ロンドン理容学校によれば、ロンドンの最高クラスの理容師の稼ぎですら年間約8万ドルだ。「8割方の議員は髪がないのに」、議会の理容師に高い給与を払う意味があるのか、と怒る市民のツイートもあった。

 議会補佐官の給与は最高で年間45万4000ドルから、レンツィが公務員給与の上限とした30万4000ドルに引き下げられる。それでもオバマ米大統領の補佐官の報酬17万2200ドルよりはるかに高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中