さらば、ジャンボジェット
エンジンがもたらす変化
この安全基準の制約がなければ、経済的な側面にもっと目が注がれただろう。通称「ビッグツイン」と呼ばれる胴体の大きい双発機は、航空機として燃費が最適化されたモデルだ。
だがビッグツインの洋上飛行が認められるまでには何年もかかった。1980年当時、米連邦航空局(FAA)長官だったリン・ヘルムスは、ボーイングの幹部に「双発機の洋上長距離飛行を認めるなら、地獄に落ちたほうがましだ」と言っていた。
だがその5年後、FAAはそれを認めた。判断基準となったのは、片方のエンジンが故障した場合に、残ったエンジン1基でどれだけの時間、飛行が可能になるかだった。85年以前はその最適飛行範囲は60分とされ、時間内に双発機が空港に緊急着陸できるルートしか認められなかった。だがエンジンの性能が改善され、85年にはその時間が120分まで延長された。これによってボーイング初の大型双発機767は大西洋を越えることができるようになった。
ボーイングのライバルとして急浮上したエアバスは、規制緩和に激しく抵抗した。大陸間飛行ができる新型4発ジェット機A340に力を入れていたからだ。彼らは、太平洋横断のような本格的な長距離飛行は4発エンジンのジェット機にしか認めるべきではないと、航空会社や政治家に対して働き掛けた。
ボーイング777は双発エンジンの信頼性を証明し続けることで、エアバスの訴えに対抗した。FAAは00年、ボーイング777に空港まで207分かかるルートを飛ぶ許可を出し、777は太平洋横断が可能になった。この運航規制は後に、330分に延長された。
ジェット機のエンジンはどれほど安全になったのか。安全基準では、少なくとも5万時間は故障しないことを求められている。これまでの記録では最長で30万時間故障なしで飛行できている。
最近では、センサーが毎秒エンジン内部を監視し、問題が深刻になる前に発見される。その情報は航空機が目的地に到着する前に目的地の整備員に伝えられ、迅速な対処が可能になった。
777が330分の運航規制をクリアしたことで、エアバスA340のメリットは失われた。A340は余分な2基のエンジンが搭載されているせいで777の燃料効率には対抗できず、11年に生産は終了された。だがこれは由緒あるボーイング747を現役で運航させる論拠が失われることを意味した。
ボーイングは、747をしのぐ次世代大型ジャンボジェットの開発はしない決断を下した。エアバスは逆に、定員853人のスーパージャンボ(A380)を開発。つまりボーイングは、自ら開拓した市場をライバルに譲ったのだ。これは厳しく、長い検討を要する決断だった。