最新記事

テクノロジー

絶好調アップルを支える中国の搾取工場

過去最高の利益が労働者の犠牲に上に成り立っていることを忘れるな

2012年3月7日(水)14時18分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

広東省深センにある富士康の工場。過酷な労働条件が問題になっている Bobby Yip-Reuters

 夜中に従業員をたたき起こし、お茶とビスケット1枚の軽食を与えて、12時間ぶっ通しで働かせる──アップル社製品がなぜアメリカで作られないかについて書かれたニューヨーク・タイムズ紙の記事で、一番衝撃を受けたのはこのくだりだ。

 07年、初代iPhoneの発売直前にアップルは画面デザインを変更。むちゃな納期にもかかわらず中国の工場が何とか間に合わせた、とアップル元幹部が匿名で同紙に語っている。

 記事によれば、新しい画面が工場に届いたのは夜中近く。寮にいた8000人の労働者が起こされ軽食を与えられると、30分もたたないうちに作業がスタート。工場は4日以内に、1日1万台の生産体制に入った。「そのスピードと柔軟性は驚異的だ。アメリカの工場ではこうはいかない」と、元幹部は言う。

「こうはいかない」のは悪いことだろうか。従業員を寮に押し込め、夜中に起こしてビスケット1枚で長時間働かせる。そんな労働条件はアメリカでは認められない。野蛮だからだ。

 なのに私たちは、こうした実態を見て見ぬふりをしている。目新しい機器が欲しい、それも手頃な価格で買いたいからだ。

 ニューヨーク・タイムズは、アメリカでiPhoneを生産すれば、1台につき65ドルのコスト増になると見積もっている。アップルは利益率が非常に高いから、その程度のコスト増なら耐えられる。だが本当に重要なのは人件費の安さではなく、「スピードと柔軟性」だ。

 アップルは最近、世界中の工場の労働条件改善を目指す非営利組織「公正労働協会」(FLA)に加盟した。今年に入ってティム・クックCEOは社員向けのメッセージで、下請け工場の労働条件は改善されていると報告。納入業者には「アップルの厳しい行動規範を守るよう求めている」と強調した。「この業界で、アップルほど強力に労働者のための環境改善を推進している企業はない」

消費者にも責任はある

 中国でiPhoneを受託製造しているのは台湾系メーカーの富士康(フォックスコン)。同社は従業員と労働条件を明記した契約を結び、労働者の権利を保障した中国の法律も遵守している、とニューヨーク・タイムズに声明を寄せた。

 しかし彼らに一体どんな権利が認められているというのか。アップルの下請け工場の実態を告発している喜劇俳優マイク・デイジーによると、悪いのは工場よりも中国政府だ。政府は、欧米ならあり得ないような搾取的環境を欧米企業にお膳立てしている。多数の労働者を狭い寮に押し込め、長時間の過酷な労働──トイレ休憩なし、雑談禁止、立ちっ放しの作業──を強いる。こうした工場は、欧米企業にすれば「夢の工場」だ。

 強権的な中国政府は、欧米企業が労働組合や労働争議に煩わされないよう目を光らせている。組合を結成しようとする労働者は、刑務所行きになりかねない。

 中国の搾取工場と取引があるのはアップルだけではない。あらゆる企業が同罪だ。私たちが使う製品も私たちの生活も、中国の労働者の犠牲の上に成り立っている。これはアップルや電子機器業界ではなく、消費者の責任だ。私たちが声を上げなければ、状況は変わらない。

 アップルは昨年10〜12月期の業績を発表したばかり。売上高、純利益共に過去最高を記録した。利益率はハードウエアの製造企業としては驚異的な数字だ。ウォール街は歓喜し、株価はますます上がるだろう。

 だが、この利益がどうやってひねり出されたのか、頭に入れておいたほうがいい。

[2012年2月 8日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英、米との貿易協議に期待 合意近いとビジネス貿易相

ワールド

トランプ氏、マスク氏は「素晴らしい」と擁護 いずれ

ワールド

韓国憲法裁、尹大統領の罷免決定 直ちに失職

ビジネス

先駆的な手法を一般化する使命感あり、必ず最後までや
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 2
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 7
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 8
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中