最新記事

地球温暖化

オーストラリア「炭素税」は抜け穴だらけ

温暖化ガス排出企業への課税によって物価は上昇するが、減税と補助金のおかげで国民も企業も困らない?

2011年7月12日(火)17時23分

一見大胆 ギラード首相が提示した対策は温暖化防止に貢献するか Yuriko Nakao-Reuters

 オーストラリアのジュリア・ギラード首相が7月10日、地球温暖化を食い止める大胆な改革構想を発表した。企業が二酸化炭素を1トン排出するごとに、23豪ドル(約2000円)の「炭素税」を課すというのだ。

 来年7月に導入される新税の対象企業は、排出量が多い500社。オーストラリアは2015年に、市場で排出価格が決まる排出量取引制度の導入を控えており、それまでの移行措置である炭素税は、欧州以外では最大規模となる市場主導の温室効果ガス削減の枠組みに向けた試金石となる。

 10日の国民に向けたテレビ演説に先立って行われた記者会見で、ギラード首相は次のように述べた。「私たちは国家として、炭素に課金し、クリーンエネルギーの未来を創造するべきだ。オーストラリア国民は環境にとってよいことを望んでいる」

負担増は富裕層の70万世帯だけ

 もっとも、炭素税の導入によって消費者物価が1%近く上昇するため、保守派の野党からは激しい非難が噴出。オーストラリア経済の競争力を削ぐとの批判もある。

 シドニー・モーニング・ヘラルド紙は、企業が炭素税の負担を物価に転嫁するため、電気料金や航空運賃を含む生活コストが上昇すると指摘する。ただし、減税などの家計支援策が行われるおかげで、物価上昇の影響を受ける家庭はごくわずかだ。
 
 同紙によれば、150億豪ドル規模の減税と社会保障の拡充政策によって、全880万世帯のうち400万世帯が、炭素税による負担増を上回る恩恵を受けるという。プラスマイナスがほぼゼロとなる家庭も200万世帯に上り、純粋な負担増は富裕層の70万世帯に留まるという。

 豪デイリー・テレグラフ紙は、炭素税を財源とした政策の一環として、政府が再生可能エネルギー部門の拡大に130億豪ドルを投じる計画だと報じている。

 エネルギー業界は、炭素税は二酸化炭素排出量が年間2万5000トンを越えるすべての企業に影響があるとして、新税導入に反対するキャンペーンを大々的に行ってきた。3月には、国内各地の大都市で炭素税導入に反対するデモが行われた(オーストラリアは石炭の一大輸出国であり、電力需要の80%を石油エネルギーに依存している)。

 とはいえ、実際には企業にも手厚い「抜け道」が用意されている。大型トラックを除く自動車運転者と農業・林業は、炭素税の支払いを免除される。鉄鋼メーカーや石炭業界、電力会社は重い負担を強いられるが、経営安定のために多額の補助金が支給されるという。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア製造業PMI、3月は48.2 約3年ぶり大幅

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中