最新記事

ギリシャ危機

EUに忍び寄る旧ユーゴ型分裂の危機

2011年6月16日(木)19時19分
フィル・カイン

 経済の効率性が高い北部の国々と停滞する南部の国々を分けて考える「2つのスピードをもつ欧州」という概念も、目新しいものではない。ユーゴスラビアでも、経済水準が大きく異なる6つの共和国を満足させる政策を決める作業は困難を極めたが、「不均整な連邦」という言葉で正当化されていた。

 比較的豊かだったスロベニアとその他の共和国を隔てていた「経済不均衡」が理由の1つとなって、スロベニアは91年6月に連邦からの独立を宣言した。現在のヨーロッパにユーロ脱退に関する法的枠組みが存在しないのと同じように、ユーゴスラビア連邦からの脱退に関する枠組みがなかったため、憲法学者らはスロベニアの脱退の合法性に疑問を呈した。

 メンシンガーによれば、04年にEU、そして07年にユーロに加盟したスロベニアは「国というよりむしろEU圏内のある地方のようなもの」。スロベニアは貨幣供給量や税、国境管理、様々な場での「ルール」を決める権限など、多くをEUに託してきた。

 とはいえ、メンシンガーはスロベニアがEUやユーロ圏に加盟することに賛成してきたし、今も当時の決定を覆したいとは思わない。もし覆せば、「その犠牲は大きく、不安が広がることになるから」だ。

ユーロがうまくいくのは経済がいい間だけ

 それでもメンシンガーには懸念がある。1つは、ユーロは各国の経済が不安定な時期にはうまく機能しないのではないかということ。もう1つは、借金まみれのギリシャ経済を救済しようというEUの試みだ。

 彼のみるところ、EUによるギリシャ救済策はフランスとドイツの銀行を潤わせる一方で、ギリシャの状況を悪化させるだけ。「計算すれば簡単だ。負債がGDPの160%で金利が成長率よりも高ければ、負債はさらに膨らむばかりだ」

 EUの経済危機がどういう結末を迎えるのか、今はまだ見えてこないが、メンシンガーはEU自体が店じまいをするとは考えていない。

「現在のEUは83年のユーゴスラビアと同じだ」と彼は言う。「83年当時、ユーゴスラビアの政治家たちはどうやって経済システムと国家全体を救えばいいのか、必死になって考えていた」。

 メンシンガーは、EUの政治家たちはユーゴスラビアよりもうまく不安定な時期を耐え抜く方法を見出してくれることを期待している。それrでも、長期的にこれだけは確信している。「EUがオーストリアのハプスブルク家ほど長く続くことは絶対にない」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム、年明けから最低賃金を7%以上引き上げ

ビジネス

マクロスコープ:円安巡り高市政権内で温度差も、積極

ビジネス

ハンガリー債投資判断下げ、財政赤字拡大見通しで=J

ビジネス

ブラジルのコーヒー豆輸出、10月は前年比20.4%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中