最新記事

米金融

投資銀行「おいしい商売」はもう終わり

2010年7月26日(月)17時36分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

 09年にアメリカで最も規模が大きかったIPOの発行総額は、3億7100万ドル(バッテリー製造会社のA123システムズ)。中国で相次いでいる大型IPOと比べると、あまりにスケールが小さい。これまでアメリカの投資銀行は利幅の大きいアメリカ企業のIPOを重要な収益源にしてきたが、世界のIPOビジネスでアメリカ市場が占める割合は日に日に低下しているのだ。

GM再上場でどれだけ儲かる?

 投資銀行のビジネスをやりにくくしている要因はもう1つある。金融危機の後、政府が企業救済に乗り出した結果、アメリカ政府が投資銀行の重要な「得意先」になった。国民の税金を預かる政府相手の商売では、投資銀行としても手数料の減額を受け入れざるを得ない。

 モルガン・スタンレーは、米政府の依頼を受けて、政府が保有するシティ株を少しずつ売却している。ただし目論見書によれば、政府がモルガンに支払う手数料は、電子取引で売却した場合で1株当たり0.003ドル、それ以外の方法で売却した場合で1株当たり0.0175ドルにすぎない(シティの株価は4ドル前後で推移)。

 モルガンは、国有化されているゼネラル・モーターズ(GM)株の再上場も手掛ける可能性が高いが、手数料は民間相手より(例えば同業のフォードが株式を売り出す場合に比べて)大幅に引き下げざるを得ないだろう。

 ほかの投資銀行も、資本注入と引き換えに財務省が受け取った新株引受権の売却など、アメリカ政府の不良資産救済プログラム(TARP)関連のビジネスを手掛けている。手数料収入はごく控えめだ。最近、バレー・ナショナル銀行の新株引受権の売却を手掛けたドイツ銀行の場合も、目論見書によれば手数料収入は15万5000ドルでしかない。売却総額のおよそ2.7%どまりだ。

 もっとも、以前より手数料収入が減ったとはいえ、まだ投資銀行が暴利をむさぼり過ぎだと感じる人は多いかもしれない。金融危機の際に、アメリカの納税者は金融システムを、とりわけ大手投資銀行を救済するために異例の負担を強いられた。投資銀行は、政府の仕事を無償で引き受けてもいいくらいなのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは156円前半、年末年始の円先安観も

ワールド

米・ウクライナ首脳会談、和平へ「かなり進展」 ドン

ビジネス

アングル:無人タクシー「災害時どうなる」、カリフォ

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 実弾射撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中