投資銀行「おいしい商売」はもう終わり
09年にアメリカで最も規模が大きかったIPOの発行総額は、3億7100万ドル(バッテリー製造会社のA123システムズ)。中国で相次いでいる大型IPOと比べると、あまりにスケールが小さい。これまでアメリカの投資銀行は利幅の大きいアメリカ企業のIPOを重要な収益源にしてきたが、世界のIPOビジネスでアメリカ市場が占める割合は日に日に低下しているのだ。
GM再上場でどれだけ儲かる?
投資銀行のビジネスをやりにくくしている要因はもう1つある。金融危機の後、政府が企業救済に乗り出した結果、アメリカ政府が投資銀行の重要な「得意先」になった。国民の税金を預かる政府相手の商売では、投資銀行としても手数料の減額を受け入れざるを得ない。
モルガン・スタンレーは、米政府の依頼を受けて、政府が保有するシティ株を少しずつ売却している。ただし目論見書によれば、政府がモルガンに支払う手数料は、電子取引で売却した場合で1株当たり0.003ドル、それ以外の方法で売却した場合で1株当たり0.0175ドルにすぎない(シティの株価は4ドル前後で推移)。
モルガンは、国有化されているゼネラル・モーターズ(GM)株の再上場も手掛ける可能性が高いが、手数料は民間相手より(例えば同業のフォードが株式を売り出す場合に比べて)大幅に引き下げざるを得ないだろう。
ほかの投資銀行も、資本注入と引き換えに財務省が受け取った新株引受権の売却など、アメリカ政府の不良資産救済プログラム(TARP)関連のビジネスを手掛けている。手数料収入はごく控えめだ。最近、バレー・ナショナル銀行の新株引受権の売却を手掛けたドイツ銀行の場合も、目論見書によれば手数料収入は15万5000ドルでしかない。売却総額のおよそ2.7%どまりだ。
もっとも、以前より手数料収入が減ったとはいえ、まだ投資銀行が暴利をむさぼり過ぎだと感じる人は多いかもしれない。金融危機の際に、アメリカの納税者は金融システムを、とりわけ大手投資銀行を救済するために異例の負担を強いられた。投資銀行は、政府の仕事を無償で引き受けてもいいくらいなのかもしれない。