最新記事

アメリカ

郵便値上げが経済を救う

大赤字の米郵政公社が封書料金の値上げを発表。これは経済・企業・消費者・環境にとって良い知らせだ

2010年7月8日(木)16時49分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

プラス2セント たび重なる値上げに企業や団体は怒っているが……

 米郵政公社は7月6日、第一種郵便(普通郵便)の封書の料金を来年1月から2セント値上げして46セントにすると発表した。

 郵政公社は11年度に70億ドルの赤字を計上すると予想されている。郵便料金の値上げだけでは焼け石に水のため、土曜配達の廃止といった経費削減策も検討しているという。

 このニュースに、安価な郵便に依存している企業や団体は予想通りの反応を示した。

「全米の消費者が、送らなければならない手紙や小包のためにより多くの出費を強いられる。企業は大企業も中小も痛手を被り、さらに雇用情勢が悪化するかもしれない」と文句を言うのはトニー・コンウェー。非営利郵便利用者連盟の事務局長にして、低価格郵便連盟のスポークスマンだ。

 ちなみに低価格郵便連盟のメンバーには、製紙会社やダイレクトマーケティングの会社、封筒の業界団体にタイム社などのほか、アメリカ雑誌発行者協会が名を連ねている。そしてアメリカ雑誌発行者協会のメンバーには、私の雇い主であるニューズウィークが名を連ねている。

 大事な勤め先の危機ではあるが、私はあえて言いたい。値上げは雇用情勢の悪化を招くというより、いいスタートを切るきっかけになる。

 08年の金融危機と、それに続く数十年に一度の不況を受け、消費者は何にどのくらい金を払うべきかについて改めて考えるようになっている。技術の進歩もあいまって「全米規模の価格改定」とでも呼ぶべきトレンドが起きているのだ。

 自動車保険の保険料は走行距離とリンクするようになり、レンタカーは1時間単位で借りられるようになった。公共サービスは増税によって実質値上げとなり、インターネットのコンテンツについても有料化の動きがある。郵便だけがかやの外というのはあり得ない。

DMも請求書も郵送をやめれば

 郵政公社が赤字に直面しているということは、非効率的な事業や業務に多額のカネを使っているということだ。それに郵便物の量が減れば経済にも企業にも消費者にも、そして環境にもいい影響が期待できる。

 受け取った郵便物を1週間、開封しないで箱に集めておく実験をしてみるといい。その後中身をチェックしてみる。さて、そのうち何パーセントが本当に必要なものだっただろう?

 だからコスト増に文句を言うよりも、大口の郵便利用者は無駄のない郵便の使い方を探すという当然の対策を採るべきなのだ。企業はより賢くならなければならない。そして多くの企業の郵便の使い方は賢いとは言いがたい。

 郵便料金が上がれば、企業はもっと慎重にダイレクトメール(DM)を出すようになるだろう。うちに毎月カタログを2部も送りつけて来るインテリア雑貨店なら、1部に減らすことで郵送料の値上げ分を十分相殺できるはずだ。8年も前に引っ越した前の家主宛てにDMを送ってくる大手ホームセンターも、送付をやめれば多少の節約になるはずだ。

 公共料金などの請求事務もそうだ。請求書を郵送してきて、料金分の小切手をこれまた郵送で送り返すよう求めるところはまだまだ多い。省エネに熱心なはずの電力会社がなぜ、毎月14ページにもわたる請求書の郵送をやめようとしないのだろう。もし郵便料金の大幅値上げで電子メール請求書やネット経由の払い込みを選ぶ人が増えれば、これは経済にとってもプラスになるはずだ。

雑誌ビジネスモデルの転換点

 さて出版不況のただ中にある雑誌にとって、たしかに郵便料金の値上げは泣きっ面に蜂だ。

 アメリカの雑誌は長きにわたり、大幅な割引をエサに大量の定期購読者を確保するというビジネスモデルに依存してきた。つまり安い郵送料と潤沢な広告収入に頼って利益を上げてきたのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米8州がネクスターのテグナ買収阻止に向け提訴

ビジネス

英11─1月賃金上昇率、5年超ぶり低水準 失業率は

ビジネス

利上げは毎会合で適切に判断、中東情勢による経済影響

ワールド

台湾、エネ供給の見返りに「統一」迫る中国の提案を一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 3
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 8
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 9
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 10
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中