最新記事

自動車産業

小さな車に期待しすぎるなアメリカ

米メーカーはこぞってエコな小型車に力を注ぐが、大型車志向の消費者を振り向かせることはできるのか

2010年1月12日(火)16時24分
ジュリー・ハルパート

 今年の秋、アリゾナ州トゥーソンに住むホリー・ガードナー(45)は愛車のトヨタ・ランドクルーザーをもっと小さい車に買い替えようと考えていた。車の用途は主に3人の息子の送り迎えで、走行距離は週に640キロほど。ガソリン代を節約したかったのでホンダのフィットなどを検討したが、結局はランドクルーザーに乗り続けることにした。

「現実問題として大型SUVより小さい車になんて乗れない」とガードナーは言う。息子たちとその友達、愛犬に子供たちのリュックサック、それからスポーツ用具を運ぶには、大型車は必須なのだ。

 環境に優しい車造りを目指しているアメリカの自動車メーカーにとっては、あまり聞きたくない話かもしれない。メーカーはこれまで長年、小型でおしゃれで燃費のいい車に対するアメリカ人の強い需要に応えるべきだと言われ続けてきた。だが本当にアメリカ人は小さい車に乗りたいと思っているのだろうか。

 一部のアナリストに言わせれば、答えは明らかだ。調査会社IHSグローバル・インサイトのアナリスト、ジョン・ウォルコノウィッツは「アメリカ人は小型車を欲しがってはいない」と言う。ガソリン価格が1リットル=1ドルを下回る水準で安定している今、消費者が小型車に飛び付くとは思えないと彼はみている。

 それでも各メーカーは小型車の販売戦略に力を入れている。向こう3年の間にアメリカの3大自動車メーカーが発売を予定している小型車は少なくとも10車種。それも従来とは違い、ヨーロッパ的なおしゃれなデザインで、パワーも十分あり、高級車並みのハイテク装備や内装を備えた新世代の小型車だ。

 ゼネラル・モーターズ(GM)が発売を予定しているのは、「シボレー・クルーズ」の新型など3車種。クライスラーは資本提携先であるフィアットの「500」を2011年から販売する。「コンパクトカーは売れ筋商品」であり、自動車市場のなかでも成長が最も見込める分野だと、GMの世界市場・業界分析担当専務のマイク・ディジョバンニは言う。GMはガソリン価格が再び高騰して市場が小型車にシフトする事態を想定しているのだ。

大型のほうが安心できる

 フォードでは、人気のピックアップトラックの生産をやめる予定はないという。その一方で小型車を主力製品に位置付け、「フォーカス」の後継車種や、スライドドアの7人乗りの小型ミニバン「グランドC│MAX」を市場に投入する。

 現行のフォーカスはフォード唯一の小型車だが、売れ行きは好調だと同社の米国販売主任アナリストのジョージ・ピパスは言う。フォーカスは既にフォードの売り上げの11%を占めており、「小型車分野で強力な地歩を築かない限り、自動車市場におけるシェアを伸ばすことなど望めない」

 しかし小型車志向が進むと信じている人ばかりではない。「われわれも将来的には小型車は増えると予測しているが、フォードが言うほどの幅ではない」と、調査会社J・D・パワーのシニアマネジャー、マイク・オモトーゾは言う。小型車のシェアは全体の25%に届かないだろうと彼はみている。理由は冒頭のガードナーのように広い車内空間がどうしても欲しいという人が多いからだが、それだけではない。

 大型車のほうが安全だという消費者の意識を覆すのは難しいと、米国道路安全保険協会(IIHS)のエイドリアン・ランド会長は指摘する。小型車の安全性も向上してはいるが「より大きく重い車のほうが乗員を保護する能力は高い」と彼は言う。

 だがフォードのピパスは、小型車は多くの人々に受け入れられると信じている。「ピックアップトラックやSUVを売っているだけでは成長できない」。デトロイトの再生は小型車販売の成否に懸かっているのだ。   

[2009年12月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、FRB議長候補2氏を高評価 「オープン

ビジネス

FF金利先物、1月米利下げ確率31%に上昇 失業率

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中