最新記事

キャリア

トップMBAが新興国で働きたい理由

アメリカ国外に就職するビジネススクール卒業生が急増中。仕事のジャンルも金融、コンサルばかりではなくなってきている

2009年12月21日(月)18時38分
ナンシー・クック

就職戦線異状あり アメリカのエリート予備軍の若者たちの意識変化は金融危機の副産物? 
Mike Segar-Reuters

 アメリカの一流ビジネススクール卒業生の進路と言えば、ニューヨークやサンフランシスコやロンドンで金融やコンサルティング、マーケティングの仕事に就くのが定番。しかし、09年6月にダートマス大学経営学大学院を卒業したマヘシュ・ムラルカは、そういう道をあえて選ばなかった。

 ムラルカは祖国のインドに戻って、スイス系の再保険会社に就職した。「最近はインドのほうがチャンスがたくさんある」と、ムラルカは言う。「インドの変化の速さにはびっくりさせられる」

 アメリカの多くの一流ビジネススクールでは、米国内でなく、インド、中国、ロシア、ブラジルなどの新興国での就職に関心を示す学生が増えているという。ペンシルベニア大学ウォートン校(ビジネススクール)の最近の卒業生のざっと25%は、米国外で働いている(数年前は16%だった)。

 しかもこのトレンドはもはや、留学生がアメリカでMBA(経営学修士号)を取得して祖国に戻るというケースだけにとどまらない。業種も従来の金融やコンサルティングだけでなく、不動産や投資、エネルギー、インフラ関連などに広がっている。

「これは明らかに、一時の流行などではなさそうだ」と、ウォートン校の進路指導責任者ミシェル・アントニオは言う。「(そうした新しい就職先こそ)いま一番活気がある場所だと、学生たちは感じている」。

給料の安さを帳消しにする魅力

 カーチス・ガッサーは、ビジネススクール卒業後に韓国で働くことになるとは思ってもいなかった。いつか国外で働きたいとは思っていたが、それはビジネスの世界でもっと足場を固めてからだと思っていた。

 しかし09年春、韓国の大企業サムスンのグローバル戦略担当のコンサルタントにならないかと誘いを受けた。「ラッキーだと思った」と、ガッサーはソウルで電話取材に答えて言った。「経済環境の悪さを考えれば、申し分のない就職先だった」

 米国外に就職するデメリットの1つは、(世界的な多国籍企業で働く場合を別にすれば)アメリカの一流企業との給料のギャップかもしれない。09年にウォートン校を卒業したMBA取得者の初任給(年間)の中央値は、11万ドル(これに加えて2万ドルくらいの支度金も支給される)。一方、ウォートン校の進路指導責任者アントニオによれば、新興国で勤める場合の初任給は年間3万5000ドル程度のケースもある。

 それでもあえて新興国を就職先に選ぶMBA取得者が大勢いるのは、(停滞市場ではなく)成長市場で大きな仕事を任せてもらえるという魅力があるからだ。

 祖国のインドで就職したムラルカの場合は、社内のIT部門と営業部門の橋渡し役という重要な役割を担い、会社の方針にもある程度の発言権を持っている。「今の職場で何かを提案すれば、きちんと議論して、受け入れてもらえる」と、ムラルカは言う。

「国内完結」型のキャリアは古い?

 いまや、中国への投資やインドの業者との取引は当たり前。どの国でキャリアを築くにせよ、新興国と関わらずには済まないと、MBAの学生たちは理解している。アメリカ企業だけを選んで転職を重ねられる時代ではないという意識も広がっている。

「1つの国だけでキャリアを築く時代ではないと、大半の学生は思うようになった」と、スタンフォード大学ビジネススクールのプリン・サングビ副学長は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米援助削減で揺らぐ命綱、ケニアの子どもの

ワールド

訂正-中国、簡素化した新たなレアアース輸出許可を付

ワールド

情報BOX:米国防権限法成立へ、ウクライナ支援や中

ビジネス

アングル:米レポ市場、年末の資金調達不安が後退 F
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中