最新記事

エネルギー

自家発電ブームに電力会社の反撃が始まった

2009年8月26日(水)18時11分
マシュー・フィリップス

大規模な発電施設はカネを喰うだけ

 だが、電力供給の一定の割合を再生可能エネルギーにすることを義務づけた法案が大半の州で可決されるにつれ、電力会社も渋々ながらソーラー発電の世界に参入してきた。要は、そうする以外に選択肢がなかったのだ。

 屋根にソーラーパネルをつける代わりに彼らが選んだのは、巨大な太陽光発電施設を建設し、利用者から電気料金を徴収することで利益を上げるというお得意のアプローチだった。実現すれば膨大な電力を生み出せるが、実際には多くのプロジェクトが審査の過程で頓挫し、実際に電力を供給しているケースは今のところわずかしかない。何千キロにもわたって新たな送電線を敷設するには巨額のコストがかかるうえに、建築規制や土地収用をめぐるお役所仕事に振り回されるという事情もある。

 05年に発令された連邦法によって、15年までに再生可能エネルギーを1万メガワット増産することが定められた。当初はその大半を大規模な太陽光発電施設が供給すると考えられていたが、4年経った今もその気配はない。

 ネバダ州の砂漠に建設されたアメリカ最大の太陽光発電施設は07年に稼働を始めたが、電力供給は合わせてわずか78メガワット。最も野心的な目標を掲げるカリフォルニア州では、10年末までに州内の電力供給の20%を再生可能エネルギーに切り替えることが義務づけられている。だが現在のペースでいけば、目標達成はとても無理だ。

電力会社によるバックアップは必要だが

「電力会社は電力網の支配を守り、100年間続いたビジネスモデルを維持することばかり気にしている。クリーンな電力をつくることには興味がない」と、太陽光発電施設への反対運動を率いているジム・ハーヴィーは言う。彼は、ソーラー自家発電だけで国内の再生可能エネルギーをすべて供給できると信じている。

 電力量だけを考えれば確かに可能かも知れないが、実際にはあまりに野心的すぎる目標だ。一元管理された電力供給システムがなければ、信号や街灯の電力を誰が負担するのか。雨が1週間降り続いたら? 太陽光による電力を確実に貯蔵できる方法が開発されていない以上、自家発電を支えるバックアップ体制は必要だ。

 だからといって、太陽光による自家発電ブームの意義が損なわれることはない。昨年、ソーラー自家発電による電力供給の増加量は電力会社の10倍以上に達した。

 それが可能になったのは、州や連邦政府の補助金のおかげだ。ソーラーパネルの発電コストが、06年の1ワット当たり9ドルから6ドルに下がった影響も大きい。

「あと10年は無理だと思っていた低価格でソーラーパネルを販売できるようになった」と、スタンダード・リニューアブル・エナジー社(テキサス州)の創設者ジョン・バーガーは言う。07年には150万ドルだった同社の収益は、今年は5000万ドルに達する見込みだという。

 電力会社の話題になると、バーガーの口調は一段と熱を帯びる。「ソーラー発電が登場した当初、彼らはそんなものは無視できると思っていた。その後、自分たちが独占できると考えたが、自家発電との競争が勃発し、今では恐れを感じている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 8
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中