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3.11 日本の試練
日本を襲った未曾有の大災害を
本誌はどう報じたのか
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技術は災害を超えるが
「想定外」とされた今回の大震災は予測できた。科学と技術の力で悲劇の再来を防ぐために必要なのは
宮城県沖から福島県南部に及ぶ地域を震源とした巨大地震が東北地方を襲い、多くの建物が倒壊し地割れが発生。押し寄せた津波は海岸線から3㌔以上も離れた場所まで押し寄せ、1000人がのみ込まれた──。
東日本大震災のことではない。1142年前に起きた貞観地震の記録だ。地質学的な調査によれば、宮城県沖だけでなく、近くの震源域と連動して起きたこの地震は、今回の大震災と特徴がよく似ていた。マグニチュード(M)も8・3以上に達していたと分かっている。
日本は言わずと知れた地震大国。科学的な地震の研究も、それに備えるための技術も世界最高の水準を誇る。それなのに今回、大規模な被害を防げなかったのはなぜなのか。
理論上は、この場所で今回のような大地震と津波が起きる可能性があるのは分かっていた。つまり、膨大な数の人命を奪った地震は予見できたのだ。
だが実際は、こうした危険性が現実的に指摘されてきたわけでも、それに対する対策が取られてきたわけでもなかった。1000年に1度という確率の低さ故に、実際の地震対策の場で重視されてこなかった。
東北地方で複数の震源域が連動する事態が「起きないとは誰にも言えない」と、東京工業大学大学院総合理工学研究科の翠川三郎教授(地震工学)は言う。「ただ今までの事例から連動しにくいと思われていた」
技術が追い付かなかったわけでもない。日本の耐震技術は効果を発揮したとみられる。津波についても「頑丈に造られた大きな鉄筋コンクリートの建物は、ほとんど流されなかったようだ」と、翠川は言う。
危険と知ってはいても
起こり得る地震の規模を探る力も、予測に応じた対策を取る技術も現在の日本にはある。問題は「どこまでやるか」という線引きだ。1000年に1度の確率でも耐震基準などの対策に反映すべきか、コストの負担はどうするのか。
「宮城県沖では30年周期でM7・5程度の地震が繰り返し起きてきた」と東京大学地震研究所の大木聖子助教は言う。「ただ30年に1回でも備えない人はいる。科学の発展とともに耐震技術が進んでも、その先はそれぞれの価値観の問題になる」
つまり耐震基準など防災対策には「社会的な合意」が必要なのだ。どれだけ資金を掛けても可能な限り安全に造るべき原子力施設と、個人の住宅は違う。科学的な分析結果と、対策としての技術を提示した上で、社会に判断を委ねるしかない。
東海、東南海、南海の3連動による大地震の危険も指摘されるが、対策は万全ではない。現実に起きれば「高知市などは高い津波に襲われ、それ以前に地盤沈下で水没すると分かっている」と大木は言う。「それでも人間はそこに都市を造る」
問題は国民のリスク認知の度合いだが、そこには「CAUSEモデル」と呼ばれる5つの段階がある。専門家の指摘を信頼(Credibility)し、リスクの存在に気付き(Awareness)、理解(Understanding)を深め、解決策(Solution)を探した上で実行(Enactment)に移す。
「今回の被害を見てAやUの段階には進んでいる」と、東京工業大学大学院の翠川は言う。確かに今回の地震で想定外の地震に襲われる危険性を知った日本人は少なくないはずだ。
SやEについても、技術の発展だけが解決策ではない。「リスクを理解しても、現実的に行動に移せない人もいる。補助制度などで後押しすることも必要だ」と、翠川は言う。
今後も日本が地震に襲われるのは間違いない。だが今回の大震災は多くの日本人にとって、本気で地震に備える理由(CAUSE)になったはずだ。
[2011年3月30日号掲載]