最新記事

被災地で見た「トモダチ作戦」

3.11 日本の試練

日本を襲った未曾有の大災害を
本誌はどう報じたのか

2011.06.09

ニューストピックス

被災地で見た「トモダチ作戦」

大震災支援に乗り出した米軍の人道支援「Aチーム」に同行取材。記者が見たアメリカの真の友情とは

2011年6月9日(木)09時58分
山田敏弘(本誌記者)

熱気も到着 宮城県気仙沼市の支援物資集積所で飲料水をトラックから降ろす米海兵隊員 Peter Blakely-Redux for Newsweek

*Picture Power「被災地で見た『トモダチ作戦』」はこちら

 宮城県東松島市にある航空自衛隊松島基地を出て、すぐに目に飛び込んできたのは、コンビニエンスストアの駐車場に横たわる真っ黒の大きな牛だった。「今、牛が死んでいたぞ!」と、第3医療大隊のテッド・ブラウン二等兵曹が声を上げる。「誰も回収しないから、あのまましばらく放置されるのだろうか」

 トラックの荷台から見える景色はあまりに非日常的だった。折れた木の上に車が乗り上げ、自動販売機が無造作に転がっている。駐車場を囲む鉄格子は波打って倒れ、藻や泥が絡み付いていた。

 米軍の兵士と支援物資を積んだ5台の輸送トラックが松島基地を出発したのは、東日本大震災から5日が経過した16日午後2時のこと。米軍の車列が通り掛かると、被災した家の掃除をしたり、家の前でたたずむ人たちが顔を上げ、車列を目で追った。トラックはそのまま東北自動車道を北上し、宮城県の気仙沼市に向かった。

          *

 3月16日、アメリカ軍第3海兵遠征軍のHAST(人道支援調査チーム)の第1陣が、「オペレーション・トモダチ」の一環として東北地方に到着した。

 HASTは日本政府の要請により、大震災発生直後に組織された。沖縄のいくつかの基地に駐屯する11人のメンバーで構成され、医療や補給の専門家、技術兵らが被災地で必要とされる支援についての調査や物資の手配を行う。

 雪が吹き荒れる松島基地に到着したHASTのメンバーは、日本の企業から提供された500ミリリットルのペットボトルの水2万160本を陸上自衛隊の運搬トラックに積み込んだ。そこに自衛隊員やアメリカ陸軍の兵士も加わる。

 松島基地も津波の被害に遭い4メートルほど水に漬かった。1階の窓ガラスは割れ、外には水に漬かったデスクや椅子などが並べられている。戦闘機も泥まみれになり、被害総額は最大で2300億円に上るという。

 気仙沼に向かう米軍のチームには、その日の朝に出発した東京・横田基地でのすがすがしい雰囲気が残り、皆リラックスしていた。トラックから松島の被害が見えなくなると、兵士の1人がiPadを取り出し、幌で囲われた荷台の両脇に並んで座る兵士たちに見えるように置いた。

 画面に映し出されたのは映画『特攻野郎Aチーム』だ。ある兵士が「(援助という意味のAIDから取って)俺たちもAチームだ!」と言うと、車内には笑いが起きた。

 辺りが少し暗くなりつつある頃に気仙沼へ入ると、そこには松島以上にひどい惨状が広がっていた。自動車販売店のショーウインドーには、軽自動車と乗用車が突っ込むような形で止まっている。津波で破壊された家屋などから流された木材や布団のような生活用品が大量に散乱し、泥だらけの道路の脇には、不自然な場所に車が何台も放り出されていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾン、売上高見通し予想上回る クラウド好調で株

ビジネス

米アップル、7─9月期売上高と1株利益が予想上回る

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで154円台に下落、日米中

ワールド

米副大統領「核戦力検証は安保に重要」、トランプ氏の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面に ロシア軍が8倍の主力部隊を投入
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 10
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中