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フェースブック
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会員5億人の「お友達帝国」
リバタリアンIT長者のトンデモ思想
「大学を中退して起業すれば10万ドル」という提案は、シリコンバレーに蔓延する行き過ぎた自由主義の象徴だ
世界最大のSNS、フェースブックの創設者マーク・ザッカーバーグの半生を描いた新作映画『ソーシャル・ネットワーク』を見た人なら、ピーター・シールに見覚えがあるだろう。フェースブックに最初に投資をしたベンチャー投資家のシールは、50万ドルを投じて2004年のフェースブック急成長を支えた人物だ。
映画の中でシールは、無料音楽配信サービス、ナップスターの共同創始者ショーン・パーカーと共謀してザッカーバーグの親友エドュアルド・サベリンを騙し、サベリンが保有していたフェースブックの30%の株式を横取りする。脚本家アーロン・ソーキンは、ドイツ生まれのシールをこんな台詞で一蹴する。「あいつは(映画『ウォール街』の強欲投資家)ゴードン・ゲッコーを英雄だと思っているような奴だからな」
シールがリッチな生活を楽しんでいるのは明らかだ。マクラーレンのスーパーカーを乗り回し、サンフランシスコの「自宅」はフォーシーズンズ・ホテル。白いジャケットに身をつつんだ執事まで雇っている。だがその一方で、自分はただの自堕落なIT長者ではないとも信じており、フェースブックと自身が創設したオンライン決済サービス、ペイパルで儲けた金の一部を、さらなる夢のために投資している。
「自由と民主主義は共存できない」
シールの信念の根幹にあるのは、悪びれることなく身勝手を貫く姿勢と、自然淘汰によって強い企業だけが市場で生き残れるという経済的ダーウィン説だ。自由主義経済を推進するシンクタンク、カト研究所のサイトに昨年掲載されたエッセイでは、「私は自由と民主主義が共存可能だとはもはや信じていない」と書いた。大衆は勝者がすべてを手に入れる規制なき資本主義を支持してくれないから、自分も大衆を支えないと、彼は言う。
「1920年以降、福祉の受益者と参政権を得た女性というリバタリアン(自由主義者)にとって手ごわい2つの有権者層が力を持ちだして、『資本主義的民主主義』という概念そのものが自己矛盾になってしまった」と、シールは記している。確かに、女性に参政権を与えたせいで経済が崩壊したなんて本当のことを言って歩いたら、誰にも相手にされなくなるのがおちだ。100ドル札でも配って歩くけば少しは違うかもしれないが。
シールに象徴されるシリコンバレー流のリバタリアニズムが保守派のキャスター、グレン・ベックの主張と一線を画すのは、シールは個人の行動に対して自由放任主義的で、世論を扇動しようという気がさらさらないことだ。同性愛者を公言するシールが望んでいるのは大衆から逃れることであって、ベックのように経済破綻に備えて金塊を買うよう勧めたり、群集を鼓舞して運動を盛り上げることではない。アメリカへに期待することを止めた彼は、「自由のための新たな空間を作り出せそうな最新テクノロジーを開発する努力」に注力する決心をしたという。
彼を突き動かす原動力は「ITユートピア構想」だ。オンライン決済サービス、ペイパルの創業で、シールは税制や中央銀行の政策の縛りを超えたグローバル通貨の創設を目指した。フェースブックは彼にとって、国境を越えた自発的なコミュニティーを形成する一つの手段だった。
オフラインの世界では、シールは海上に法律の及ばない水上共同体を作ったり、宇宙開発を進めたりする非営利団体「シースティーディング(海上国家建造計画)」の中心的な支援者でもある。狙いは、海上や宇宙空間で新たな政治体系を作り上げること。実現には時間がかかるかもしれないが、そのための対策も忘れていない。人間は1000年生きられると信じて延命方法の研究を行っているメシュセラ基金に巨額の寄付をしているのだ。