最新記事

漁夫の利を得る世界戦略

中国vs世界

権益を脅かす者には牙をむく
新・超大国と世界の新しい関係

2010.10.26

ニューストピックス

漁夫の利を得る世界戦略

アメリカが戦争をした国で儲けてきた中国。怖いのは軍事力ではなく、培ってきた経済的影響力だ

2010年10月26日(火)12時06分
アン・アップルボム(外交コラムニスト)

 今年4月、中国海軍はなぜか艦艇10隻を日本沿岸に送り、ヘリコプターを海上自衛隊の護衛艦に異常接近させた。7月には中国政府の高官が南シナ海は中国のものだと言い出し、一部の島々の領有権も強硬に主張。9月7日には尖閣諸島近くで中国漁船が日本の海上保安庁の巡視船と衝突。日本側が中国人船長を逮捕すると、中国は猛反発した。

 しばらく前には、中国出身のとある国連外交官が夕食会の席で「アメリカ人なんて嫌いだ」と暴言を吐く一幕もあった。どうやら最近の中国は、軍事面でも外交面でも攻撃的になってきたらしい。

 異常な事態だ。そもそも、こうした暴言や暴挙は中国の国益を損なう。ここ10年ほどの中国は頭を低くし、超大国の名よりも実利優先に徹して、結果的に政治的影響力も手にしてきた。

 この作戦は世界中で実を結んできた。アメリカは9年前からアフガニスタンに軍隊を投入し、莫大な資金をつぎ込んできた。しかしかの地で世界最大規模の銅山の採掘権を得たのは中国企業だ。鉱山の警護に当たるのは、米軍が訓練し武器を与えたアフガニスタン軍。既に地元では、銃を構えた治安第一の米兵よりも、商売に来て雇用を生み出してくれる中国人のほうが好まれている。

 運良く銅山事業が軌道に乗った暁には、長きにわたる米兵の奮闘はアフガニスタンを中国に与えるための戦いだったと記憶されることになるかもしれない。

 アメリカは戦争をし、中国は商売をする──そんな構図はほかにもある。例えばイラク。独裁政権を打倒し、その後も治安回復に血と汗を流してきたアメリカを尻目に、現地に進出した中国の石油各社は米国企業よりも大きな開発利権を手にしている。

 パキスタンもそうだ。アメリカは北部辺境地方での戦闘にかかりっきりだが、中国はパキスタン政府と自由貿易協定を結び、インフラ建設に大規模な投資をしている。

 地球規模の問題に対処する議論にも、中国は距離を置いている。アメリカや欧州諸国は化石燃料への依存を減らして温暖化を防止すべく、巨額の資金を再生可能エネルギーの開発に投じている。

 だが中国は知らぬ顔で石炭火力発電を続け、温室効果ガスの排出を増やしている。一方で欧米諸国の補助金はちゃっかり使い、新しい産業を育ててもいる。おかげで風力発電用タービンの分野では、今や中国勢が世界のトップ10に3社も名を連ねている。

レアアース独占の理由

 レアアース(希土類)市場も、中国がいつの間にか支配してしまった。レアアースは自動車用の充電池や太陽光発電用のパネルはもちろん、携帯電話機やコンピューターの製造にも欠かせない物質。必ずしも資源が中国に集中しているわけではないが、生産量は圧倒的に中国が多い。レアアースの採掘は過酷で労働集約的なため、人件費が安くて環境規制も甘い国でないと採算が合わない。そのため、今ではこの戦略的資源の生産の99%を中国が占めている。

 もしも中国がレアアースの供給を絞れば、世界中で太陽光発電パネルや携帯電話機の価格が跳ね上がるだろう。

 それだけではない。日本のメディアは先頃、中国人船長逮捕への報復措置として中国がレアアースの対日輸出を止めたと一斉に報じた。中国側は否定しているが、市場も専門家も、遅ればせながら事態の深刻さに気付き始めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中