最新記事

深海に賭けたBPとオバマの誤算

BP原油流出

史上最悪の環境・産業災害を招いた
深海油田探査の野望と教訓

2010.07.16

ニューストピックス

深海に賭けたBPとオバマの誤算

オバマが沖合での石油・天然ガスの探査・開発にゴーサインを出した矢先の大惨事。被害拡大につれ人々の怒りは募りBPの経営危機も深刻に

2010年7月16日(金)12時09分
エバン・トーマス、ダニエル・ストーン(ワシントン支局)、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局)、マシュー・フィリップス、ラビ・ソマイヤ

「アメリカの敵」ナンバーワンは、もはやトヨタ自動車でもイランでもない。イギリスの国際石油資本BPだと、英フィナンシャル・タイムズ紙は嘆く。

※下記の図はクリックするとポップアップで拡大します


sp100716_001.jpg

 4月20日に米ルイジアナ州沖のメキシコ湾の深海油田掘削施設ディープウオーター・ホライズンで作業員11人が犠牲となる爆発事故が起きてから8週間。いまだ原油の流出が止まらず、被害は海洋生物から沿岸の地域住民に拡大。火消し役のはずのBPのトニー・ヘイワードCEO(最高経営責任者)が、「海の大きさに比べれば流出した原油の量など微々たるもの」と発言するなど無神経ぶりを発揮していることもあって、アメリカ人は日増しにBPへの反発を強めている。

 それと比例するように、バラク・オバマ米大統領の対応にも不満が噴出。6月7日に発表されたABCニュースとワシントン・ポストの共同世論調査ではオバマに批判的な人が69%に達し、ハリケーン・カトリーナのときのジョージ・W・ブッシュ大統領に対する批判率62%を上回った。

 いら立つ世論に背中を押されるように、オバマ政権がBPに科す「罰金」は次第に厳しくなり、BPの株価は事故発生から40%以上下落した。買収やBPの「プランB(バンクラプシー=破綻計画)」が株式市場やイギリス政府の動揺を誘うまでになっている。

 原油流出量は既にアメリカ史上最大となり、自然破壊はもちろんルイジアナ、フロリダなど沿岸各州の地域経済に対する影響も甚大だ。事故はなぜ起こり、なぜここまで拡大したのか。再発を防止する手だてはあるのか。

 先のABCニュースとワシントン・ポストの世論調査によると、BPに批判的なアメリカ人は81%にも上る。オバマ政権は地域住民への補償や事故対策費用は全面的にBPに支払わせる方針で、BPが負担した事故対策費は既に14億ドルを超える。

イギリス人の年金も減る

 さらにケン・サラザール米内務長官は6月9日、掘削作業の停止で一時解雇される労働者の給与の支払いを新たに要求。BPの株価は1日で16%近く急落した。米政権はBPを「決して容赦しない」と、サラザールは言う。

 米議会は、BPに配当の支払いを停止して原油流出の被害を受けた数百万人の地域住民への補償を優先させることを求めている。減配に陥るとすれば、92年の景気後退以来のことになる。

 ヘイワードらBPの経営幹部は6月16日、こうした険悪ムードを解消するためオバマに会いに行く。配当停止の「手土産」を持参するという報道もある。高配当(昨年は9%)が魅力のBPのような企業が配当を停止するのは、かなり思い切った行為。株価がさらに下落する可能性もあるからだ。

 イギリス政府も助け舟を出すつもりでいるようだ。キャメロン新政権のビジネス・イノベーション・技能相、ビンセント・ケーブルが先週語ったように、巨大企業BPに何かあればイギリス経済にも直接間接に重大な影響が及ぶ。

 昨年BPが支払った配当総額は100億ドルに上り、イギリスで支払われた配当全体の約14%を占めた。イギリスではほとんどすべての年金基金にBP株が組み込まれており、国内で1800万人、人口の30%が何らかの形で同社の株式を所有しているといわれる。

 デービッド・キャメロン英首相はBP株が急落した翌6月10日に、政府としてBPを支援する用意があると表明。株価は反発した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

習氏が国民党主席と北京で会談、「中国は断じて台湾独

ワールド

石油輸送管「ドルジバ」、春のうちに修理完了へ=ゼレ

ワールド

中国、台湾周辺に艦船100隻展開 異例の規模で警戒

ビジネス

安川電機、今期純利益33%増見込む AI・半導体関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡散──深まる謎
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 7
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 8
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 9
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中