最新記事

アフリカ大陸、「極貧」の虚像

南ア、虹色の未来へ

アパルトヘイト撤廃から16年
驚異の成長、多人種社会の光と闇

2010.06.11

ニューストピックス

アフリカ大陸、「極貧」の虚像

世界各地で支援を訴える声が上がるが、実はアフリカ全体の今年の経済成長率は5%。発展は南アフリカの改革から始まっていた

2010年6月11日(金)12時04分
トム・マズランド(アフリカ総局長)

 一見するかぎり、アフリカの状況は絶望的だ。8億5000万人が暮らすこの大陸は、四半世紀前よりもひどい貧困にあえいでいる。エイズの猛威が大きな要因となり、平均寿命は短くなり、乳児死亡率は上昇している。独立後、一時は繁栄を誇ったジンバブエやコートジボワールでさえ、内戦による混乱に見舞われた。

 7月6日から3日間、イギリスのスコットランドで開催されるG8(主要8カ国)首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)では、アフリカ支援が主要議題の一つに掲げられている。議長国イギリスのトニー・ブレア首相は、アフリカは「世界の良心についた傷」だと訴えてきた。その言葉に、反論の余地はない。

 だが実のところ、アフリカを覆う暗いニュースの背後には、明るい光が垣間見える。民主選挙によって選ばれた国家元首は、30年前はわずか3人だったが、今では30人になった。

 アフリカの主要25カ国(人口の4分の3を占める)は、着実に経済力を伸ばしている。IMF(国際通貨基金)の予測によれば、今年のアフリカ全体の経済成長率は5%(27表参照)だ。

 成長の牽引役となっているのが、10年以上前に南アフリカで始まり、その後に周辺国へ広がった、痛みを覚悟した経済改革だ。「(アフリカの改革は)今や臨界点に達している。それを推し進めていくことが肝心だ」と、南アのトレバー・マニュエル財務相は言う。

 つまりアフリカは、先進国の救いの手をただ待っているだけの存在ではない。

 サミット開催を目前にした2日、世界各地でアフリカ支援を訴えるコンサート「ライブ8」が開かれた。しかし、本番のサミットでは、債務削減をめぐる準備会合での合意の確認が、唯一の実際的な成果となりそうだ。

 これは、世界の最貧国18カ国(うち、アフリカは14カ国)が国際機関から借りている債務をすべて帳消しにするというもの。アフリカにとっては140億ドルの借金が棒引きされる計算だが、債務総額が3000億ドルであることを考えれば、焼け石に水だろう。

 ブレアが立ち上げた諮問機関「アフリカ委員会」は、先進国によるアフリカ援助を2010年までに年250億ドル、15年までに年500億ドルに増額するよう求めている。だがフランスやドイツ、日本は異議を唱え、アメリカも独自の援助計画にこだわっている。援助のかけ声だけがむなしく飛び交っているのが現状だ。

 今回のサミットの「大義」に疑問を投げかける報告もある。IMFは先週、援助が貧困国の経済成長を促すことを示す十分な証拠はないとする研究結果を発表した。

南アの成功から広がった改革の波

 こうした状況の下、アフリカには、自力での経済発展が求められている。アフリカに自助努力の意識が生まれたのは、東西冷戦の終結がきっかけだった。アフリカでは80年代半ばまで、アメリカとソ連が勢力確保のための援助合戦を繰り広げていた。

 だが90年代の前半、アパルトヘイト(人種隔離政策)の撤廃に続く南アの新政策が、アフリカに新たな手本を示すことになった。

 南ア初の黒人大統領となったネルソン・マンデラは当初、白人が所有する企業の国有化を唱えていたが、方針を転換。財産権の保障を盛り込んだ憲法案を受け入れた。

 マンデラと、それに続くターボ・ムベキ現大統領の経済政策は、与党アフリカ民族会議(ANC)と同盟関係にある南ア共産党や労組との軋轢も生んだ。だが、財政引き締めは安定した成長と投資を呼び込み、南アをアフリカ成長の原動力に変えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税巡る市場の懸念後退 猶予期間設定で発動

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中