最新記事

壁にぶつかった南アの経済成長

南ア、虹色の未来へ

アパルトヘイト撤廃から16年
驚異の成長、多人種社会の光と闇

2010.06.11

ニューストピックス

壁にぶつかった南アの経済成長

中間層主導の時代は終わり、今後の頼みの綱は周辺諸国の潜在力

2010年6月11日(金)12時01分
ルチル・シャルマ

新興市場と呼ばれる国々をウオッチしていると、次のようなパターンの政治の動きにしばしば遭遇する。大統領選に左寄りの候補が出馬して、人気取りのために富の再分配と手厚い社会保障を国民に公約する。投資家は大きな不安に陥るが、そんな大統領候補もひとたびトップの座に納まると、公約よりも慎重でまともな経済運営を行う──。

 5月に就任した南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領も今のところ、こうした「台本」に沿っているようだ。少なくとも経済面では世間をぎょっとさせるようなことはしていない。選挙中はあれほど左派色が強かったにもかかわらず、ビジネスにはおおむね理解ある態度を取っている。新たに指名された財務相や中央銀行総裁も、極端な変革より穏やかな変化を志向している。

 だが、南アフリカ経済に関する良い話はここまで。南アは03年から07年にかけて毎年5%近い経済成長を記録したが、こうした高成長に戻れる可能性は低い。

 07年までの経済成長の背景には、黒人の中間層の出現をきっかけに「借金してでも消費する」という風潮が一時的に広まったことがあった。だが今では中間層は借金まみれで、金を使う余裕はなさそうだ。家計の可処分所得に対する負債の比率は80%近い。

 もっと根本的な問題は、中間層の仲間入りができそうな人がもう残っていないことだ。教育水準は低いままだし、金融危機のあおりで国内で仕事を見つけるのは至難の業だ。

 南アフリカの失業率はおよそ25%に達し、国から生活保護などを受けている国民の数は就業者の数を上回る。平均寿命は49歳と短い。犯罪率は高く、殺人事件の90%以上は未解決のまま迷宮入りとなる。

周辺国で土地勘を生かせ

 こうした弊害が生じたのは、アパルトヘイト(人種隔離政策)が長く続いたためでもある。これを一朝一夕で変えるのは難しい。

 ズマ大統領は発電所や学校などのインフラ整備にカネをつぎ込んでいるが、こうした努力が実を結ぶまでには時間がかかる。当面、飛躍的な経済成長は望めないだろう。ズマは大統領就任を可能にした持ち前のカリスマを、今度は社会を安定させるために使う必要がある。

 南アフリカ経済がこれから何年も精彩を欠くとしても、その一方で株式相場の見通しは明るい。これは、アフリカ大陸の他の地域で、マクロ経済情勢が良好である点に負うところが大きい。

 南アフリカ企業は、ナイジェリアやタンザニア、さらにはアンゴラといった国々にまで積極的に進出している。進出のペースがさらに速まる可能性も高い。これらの国々は、かつての南アフリカと同じ発展の道をたどっているからだ。

 その多くは今後、年5%の経済成長を達成する可能性がある。その背景には中間層の増加や、比較的豊かな国外移住者のUターン帰国、フロンティア市場向け投資の流入がある。

 投資家にとっては、南アフリカの優良企業への投資がこれらの市場への入り口となる。南アには他の新興諸国と比べても経営状態のいい、つまり収益率や配当が高く、コーポレートガバナンス(企業統治)に秀でた企業がいくつもある。

 かつて南アフリカ企業はイギリスをはじめヨーロッパ諸国に進出してきたが、最近では周辺国にビジネスチャンスを見いだしている。銀行や通信会社、小売業にとっては、アフリカのほうが地の利があるだろう。それほど競争は激しくないが成長は著しいアフリカ市場なら、「土地勘」を生かして事業を展開できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

パウエルFRB議長巡る召喚状、地裁が差し止め 司法

ワールド

焦点:雪解けは本物か、手綱握りなおす中国とロシア向

ワールド

米、イラン新指導者モジタバ師ら巡る情報提供に最大1

ワールド

トランプ氏、イラン濃縮ウランのロシア移送案拒否 プ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切りは常軌を逸している」その怒りの理由
  • 3
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド太平洋防衛
  • 4
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 5
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 6
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 7
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 8
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 9
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 10
    謎すぎる...戦争嫌いのMAGAがなぜイラン攻撃を支持す…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中