最新記事

サッカーW杯をきっかけに交通革命を起こすはずが...

南ア、虹色の未来へ

アパルトヘイト撤廃から16年
驚異の成長、多人種社会の光と闇

2010.06.11

ニューストピックス

サッカーW杯をきっかけに交通革命を起こすはずが...

2010年6月11日(金)12時00分
エリン・コンウェイスミス

6月11日からサッカーのワールドカップ(W杯)が開催される南アフリカ。世界中からやって来るサッカーファンは、ヨハネスブルク名物の渋滞地獄に泣かされずに済みそうだ。近く開通予定の高速鉄道「ハウトレイン」を使えば、O・R・タンボ国際空港からヨハネスブルクの中心街サントン地区までわずか15分で行ける。

 ハウトレインは最高時速160キロで走る近代的な高速鉄道。最終的にはヨハネスブルクの中心地とその約60キロ北にある首都プレトリアも結ばれる予定で、総工費は32億5000万ドル。空港線はその第1段階となる。

 少し前までは、W杯開幕までに空港線を開通させられないのではと危ぶむ声もあったが、3月に試運転も始まり、5月開通は確実のようだ。マスコミを対象に行われた先日の試運転では、真新しい車両が建設中のプラットホームから滑るように走り出した。

 問題は、高速鉄道がW杯後も利用されるかどうかだ。ハウトレインは車での移動を好むヨハネスブルク市民に、スピーディーで環境に優しい鉄道の魅力を売り込むことを目指している。

 だがヨハネスブルク大学の交通専門家ボーン・モスタートはプロジェクトに批判的だ。インフラ(社会基盤)新設に大枚をはたくのではなく、バスと鉄道の時代遅れのシステムを改善すべきだったという。

「(ハウトレインは)私たちがいま抱えている問題の解決に役立たない」と、彼は言う。「巨額の建設費を投じるからには渋滞の解消を期待したいが、無理だろう」

 住民がハウトレインを利用したくても駅までたどり着くのが一苦労だ。駅とヨハネスブルク郊外の間には125台の「豪華バス」が走る予定だが、それでは不十分だとモスタートは考えている。

 モスタートによれば、ヨハネスブルクが本当に必要としているのは、市内の交通網を総合的に管理し、路線や発着時刻を含む包括的な計画を立てる上で強い権限を持つ交通当局だ。現在は「さまざまな事業者が勝手にサービスを提供しているため接続が悪く、連携も悪く、効率も悪い」。

 大渋滞にもかかわらず、住民はマイカーでの通勤を続けている。「車は1台に平均1・3人しか乗っていないからエネルギー効率が悪い」とハウトレインの広報資料は批判。鉄道は「二酸化炭素の排出量が最も少ない移動手段の1つ」だと指摘する。

 マイカーを持たない住民(人口の推定63%)は乗り合いタクシーを利用している。これは排気ガスをまき散らすワゴン車で、多くの運転手は町中を猛スピードで走り、車列に割り込み、客を乗せるためならどこでも急停車する。

 W杯開催中は多くの都市で試合観戦用の無料シャトルバスが運行される(ヨハネスブルクでは有料)。だが試合のない日はタクシーでの移動が必要になるだろう。

 先進国からW杯を観戦に来る外国人は南アフリカの前近代的な交通システムに驚くはずだと、モスタートは言う。「私たちは恥ずかしい思いをすると覚悟しなければならない」 

GlobalPost.com特約)

[2010年3月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中