最新記事

町家の建築文化と現代の融合

ニッポン大好き!

鉄ちゃんからキャラ弁、憲法9条まで
外国人の匠が語る日本文化の面白さ

2010.05.21

ニューストピックス

町家の建築文化と現代の融合

ジェフリー・ムーサス(建築家、「Design 1st」代表)

2010年5月21日(金)12時08分
佐野尚史

伝統と革新 ムーサス(手前)が改築を手がけた京都市内の武具店「東山堂」 CHRISTIAN ORTON

「見せたいものがあるのでついてきてください」

 ジェフリー・ムーサスが記者を案内するのは京都市山科区の住宅改築現場。数奇屋風の広い邸宅内を彼について行くと、家の隅に忘れ去られたような古い蔵が現れた。「見事な蔵でしょう? これも生かす改築をしていくんです」

 今では入手困難な良質の木材を使う築90年の家は、最初は取り壊される予定だった。だがムーサスの説得によって、改築することになった。「良い物を残しつつ、歴史ある建物を現代の生活に合わせることはできる」と彼は言う。

 こう考えるようになったきっかけは、京都の町家を3年かけて修復した経験だ。マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院を卒業したムーサスは、日本の建築家、槇文彦と谷口吉生の下で働いた後、伝統建築を多く手がける京都の中村外二工務店へ。同時に、知人に紹介された築90年の町家を自分の手で直して住むことにした。

 11年間空き家だったため荒れ果てていたものの、彼にとってその町家は格好の「教材」になった。「大工の技、素材へのこだわり、自然を身近に感じさせる坪庭、建具が可能にする空間のフレキシビリティー----町家には日本の歴史や美意識、先人の息遣いが詰まっている」とムーサスは語る。

 01年に設立した「Design 1st」の事務所としても使うこの町家からは、歴史がかもす美しさや品が感じられる。一方で、寒々い土間の台所に床暖房をつけるなど、生活上の利便性も確保した。

 最近の施工例では、より大胆に伝統と現代性を融合させている。京都市内の町家建築の武具店「東山堂」を改築したときは、入り口付近の天井と壁を取り払い、吹き抜けの空間とショーウインドーを創出。内部には鉄を多用しているが、梁の延長に見せるなどの工夫で違和感を消している。「現代の材料を組み合わせることはコストパフォーマンスがいいだけではない」と、ムーサスは言う。「昔の職人にはできなかった付加価値も出せる」

 いま新たに挑んでいるのが、大型マンションの設計だ。08年に出版した書著『「縁側」の思想』を読んだ建設会社の社員から、設計チームに加わらないかと声をかけられた。既定の基礎構造の中に間取りをデザインするのが彼の役割だ。「今回の仕事は限定的だが、いつか町家が培ってきたような建築文化を日本のマンションに取り入れたい」と、ムーサスは言う。

 現代建築と日本の伝統建築を知り尽くした彼のアイデアから、画一的な間取りに代わる新たなスタンダードが生まれるかもしれない。

[2008年10月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾総統「26年は重要な年」、主権断固守り防衛力強

ワールド

再送トランプ氏、シカゴやLAなどから州兵撤退表明 

ビジネス

ビットコイン、2022年以来の年間下落 最高値更新

ワールド

ゼレンスキー氏「ぜい弱な和平合意に署名せず」、新年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中