最新記事

憲法9条は世界が求める理想だ

ニッポン大好き!

鉄ちゃんからキャラ弁、憲法9条まで
外国人の匠が語る日本文化の面白さ

2010.05.21

ニューストピックス

憲法9条は世界が求める理想だ

ジャン・ユンカーマン(映画監督)

2010年5月21日(金)12時02分
大橋 希

原体験 ベトナム戦争時、戦争放棄をうたう憲法をもつ日本に共感したというユンカーマン

 軍事力と交戦権をもつ「普通の国」に──04年1月の自衛隊イラク派遣、翌年の自民党新憲法草案発表という流れが続いていた当時、改憲は必然という空気が日本を覆っていた。世論調査でも改正賛成が過半数を占めた。「9条をもつ平和憲法は世界の人々が求める理想を示している。でも日本では、9条擁護は古くさいアカの主張とみられていた」とアメリカ人映画監督のジャン・ユンカーマン(56)は話す。

 そんな風潮に一石を投じたのが、彼の作品『映画 日本国憲法』(05年)だ。世界の識者12人のインタビューを通して、憲法制定の経緯や意義を見つめ直すもの。なかでも9条については、世界でも唯一無二の存在だという新しい視点をもたらした。

 ユンカーマンからみれば、改憲のねらいはアメリカの戦争に加担すること。「なのに国内の政治問題とされ、改憲が世界における日本の立場を変えるという認識はほとんどなかった。『世界の中の9条』という大きな枠を提案することが、自分にできる貢献だと思った」

 アメリカの大学院を卒業後、ユンカーマンは在日ジャーナリストとして日米安保に関する記事などを書き、86年には『原爆の図』を描いた丸木位里・俊夫妻を追うドキュメンタリー『劫火--ヒロシマからの旅--』を撮った。

 戦争と平和に関心を寄せ続ける原体験は、16歳で日本に留学した69年にさかのぼる。当時はベトナム戦争の真っ最中。「ベトナムに行って人を殺せるか」と自問し、アメリカで反戦運動に加わっていた彼にとって、戦争放棄をうたう憲法があり、人々が当然のように反戦意識をもつ日本は「仲間の国のようで居心地がよかった」という。

 あれから約40年。アメリカはイラク戦争の泥沼にはまり込んでいる。「日本はイラク戦争に加担したが、悲劇の歯止めになるのが9条であることも理解していると思う」

 武力ではなく、非暴力と信頼関係で平和をつくっていくのが「普通の国」──そんな未来のあり方を示す9条が、世界に広まる日をユンカーマンは待ち望んでいる。

[2008年10月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中