最新記事

フランスを弄ぶサルコジ経済学

ウラ読み国際情勢ゼミ

本誌特集「国際経済『超』入門」が
さらによくわかる基礎知識

2010.04.19

ニューストピックス

フランスを弄ぶサルコジ経済学

金融危機直後、世界各国が緊急バラまき政策に走った時には光輝いて見えた高福祉の「サルコノミクス」が、仏経済を窮地に陥れようとしている理由

2010年4月19日(月)12時05分
トレーシー・マクニコル(パリ支局)

 ニコラ・サルコジ仏大統領(54)は、保守派なのに左派の大物を閣内に引き込み、政策も右に振れたり左に振れたりすることで知られる。その政治手腕は、同世代の政治指導者のなかでも群を抜く。だが、経済手腕に関してはそうはいかない。

 世界が金融危機で揺れた昨年の一時期には、その弱点もかすんだ。当時は、世界中の指導者がこぞってバラマキ政策に熱中し、規則を破り、企業救済を乱発し、国家統制主義者に変身した。つまり、フランス的になったのだ。サルコジは輝く星に見えた。

 だが世界経済が徐々に平常に戻るにつれて、各国は財政規律の復活と構造改革という新たな圧力に直面するだろう。サルコジにとっては頭の痛い問題だ。

 サルコジには政治的野心のために経済をもてあそぶ癖がある。フランスは、手厚い社会保障という緩衝材のおかげで金融危機後の景気後退からいち早く抜け出した。だがその結果、政府は巨額の債務を抱え、平時の状態に復帰できるめどはまったく立っていない。

 EU(欧州連合)はフランスに、10年にはGDP(国内総生産)の8・2%になる見込みの財政赤字を13年までに3%以下に削減するよう勧告した。仏政府は「とてつもなく困難」「非現実的もいいところ」と反発している。

 そして今、サルコジが縁を切ると約束したフランスの悪弊や07年の大統領選で掲げた公約が、欧州2位の経済にさらなる負担をもたらそうとしている。

 トラブルの最初の兆候は「ビッグローン」と呼ばれる新規国債だ。技術革新のための長期の投資資金350億ユーロを調達するための借金で、今月に発行する。慢性的な財政赤字のせいで長期的な投資の余裕がなかったフランスが、将来に備える一助になるとサルコジは言う。だがその投資効果ははっきりせず、赤字が膨らむだけだと批判派は言う。

 この一件は、経済がサルコジの非正統的な政治手法に利用されたときの危うさも示唆している。政府が6月に新規国債による巨額投資計画を発表すると、政敵はその詳細に気を取られて失業問題などの追及はおろそかになった。

唯一の原則はご都合主義

 これこそ典型的なサルコジ経済学、すなわち「サルコノミクス」だ。それが今後フランス経済の足を大きく引っ張りかねない。

 07年の大統領選でサルコジは、硬直化した労働法制や社会保障制度の改革による過去との「決別」を訴えた。当初は、彼には改革をやり遂げるだけの精力と才能があるように見えた。

 だが疑問もあった。彼は市場メカニズムを信じる新自由主義者なのか、それともフランス伝統の国家統制主義者なのか。近代化の必要性を盛んに訴える一方で、彼は財務相だった04年に国家の基幹産業を救済した実績を自慢した。

 右派と左派の両方の発想を取り入れる姿勢は最初、現実主義と映った。だが大統領に権力が集中しチェック機能が働かないフランスには、主義にこだわらないサルコジが経済を短期的な政治目的に利用するのを止める手段がない。

 サルコジは「開放」の名の下にあらゆる政治勢力から人材を引き抜き、アイデアを盗んで政敵を出し抜いてきた。大統領選中には極右の有権者を取り込むため「愛国か、さもなくば国を去れ」と叫び、当選すると、過去最多のマイノリティー(少数派)を入閣させた。野党・社会党からは、ベルナール・クシュネル元保健相とジャック・ラング元教育相という超大物をそれぞれ外相と大統領特使に引き抜いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾総統「26年は重要な年」、主権断固守り防衛力強

ワールド

再送トランプ氏、シカゴやLAなどから州兵撤退表明 

ビジネス

ビットコイン、2022年以来の年間下落 最高値更新

ワールド

ゼレンスキー氏「ぜい弱な和平合意に署名せず」、新年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中