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【事例2】カトリーナが生んだ救援システム
現場で入力されたデータを一元管理、支援の進捗度を常時把握する
テキサス州を拠点とするネイバーフッド・センターズは全米で最も規模が大きく、最も急拡大しているNPO(非営利組織)の1つ。メキシコ湾岸地域の住民20万人以上を対象に高齢者支援や児童保護プログラムを提供する一方で、世界最大級のNPO資金調達団体ユナイテッド・ウェイと提携して災害救援活動も行っている。
トム・コメラは4年前、ネイバーフッド・センターズの情報システムなどを統括するCIO(最高情報責任者)に就任した。その2週間後、米南部にハリケーン「カトリーナ」が上陸。数週間後にはハリケーン「リタ」も襲来した。
ハリケーンが来る前、コメラはネイバーフッドの情報管理体制に自信を持っていた。だがハリケーン被害で、多くのバックアップディスクが消失。個別事例の概略をまとめた重要なファイルも失われ、支援する被虐待児童や高齢者に関する情報が消えてしまった。
「カトリーナのおかげで、情報システムに問題があることが分かった」と、コメラは言う。「どんな対策を取ってもファイルを失う可能性は残る」
そこで決断したのが、IBMが提供するクラウド・コンピューティングサービスの導入だ。ファイルなどを自前のサーバーに保存することをやめ、IBMのクラウドにすべてを預けることにした。
賢い決断だった。08年、ハリケーン「アイク」がテキサス州の湾岸地域に上陸したが、ネイバーフッドの情報システムはまったく被害を受けなかった。
「本当にほっとした」と、コメラは話す。「緊急援助団体は自然災害に迅速に対応する必要がある。だが自分たちのデータが安全でなければ、その務めを果たせない」
クラウドはデータを守るだけではない。コメラによれば、これまで不可能だった方法でネットワークを利用する道も開けた。
救援活動向けのクラウドアプリ
クラウド・アプリケーションの「プロミス」を使えば、家庭の事情で朝食や昼食が取れない児童に無料で食事を提供するプログラムの担当者は、何食分を提供したか市内のどこにいてもデータを入力できる。コスト面の理由でコンピューターの一元管理を行えなかった以前はできなかったことだ。
支援する児童や高齢者の家を訪問したケースワーカーが、ノートパソコンや携帯電話を使ってデータを入力することも可能になった。彼らが電話で伝える情報は、音声データをネット経由で送受信するボイス・オーバー・インターネット・プロトコル(VoIP)技術を使って自動的にセンター専用のクラウドへ送られる。
「現場へ行って活動を行い、事務所に戻って報告書を作成するのでなく、リアルタイムで資料を更新できる」と、コメラは言う。「個々のケースに、より望ましいタイミングで対応できるようになった」
ケースワーカーに掛かる負担も軽減しているという。データを直接入力できるため、現場で手書きした内容をコンピューターに打ち込む手間が省ける。おかげで1件の事例に割く時間も、データの入力ミスも減っている。
アプリケーション「ターグ」の力も大きい。ハリケーンなど自然災害時の支援活動担当者はこのアプリケーションを利用して救援物資をどれだけ提供したか、何が必要か、何人の被災者が避難したかなどのデータを報告している。
「クラウドが実現するオートメーション化は援助活動の在り方を変える可能性を秘めている」と、コメラは語る。「これからの活動はずっと効率的になるだろう」
[2009年10月28日号掲載]