最新記事

【事例1】貧しい教室を格安でハイテク化

クラウド化知的生産革命

仕事の効率化から「知」の創造まで
新世代コンピューティングの基礎知識

2010.02.04

ニューストピックス

【事例1】貧しい教室を格安でハイテク化

1万4000台のおんぼろパソコンが低予算でよみがえった

2010年2月4日(木)12時07分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

 ケンタッキー州で最大の学区パイク郡には27の学校があり、合計1万1000人の生徒が通う。管轄区域は数百キロにわたり、ほとんどが田舎だ。おまけにケンタッキー州は全米でも比較的貧しい州の1つ......ハイテク利用の面では、実に条件が悪い。

 区内の学校で使われているコンピューターの総数は1万4000台。その多くは年代ものだ。いまだにOS(基本ソフト)がウィンドウズ95のものや、ハードディスクドライブがないものもある。

 学区のハイテク化担当責任者で教師のマリラ・ホーンは先頃、生徒3人につき1台の最新型コンピューターを導入するにはいくら掛かるかを計算した。見積もり結果は500万ドル。「そんな予算はどうやっても出なかった」

 それならばと、ホーンはサーバー上でアプリケーションを起動させるシトリックス・システムズ社の製品をインストールした。だが学校外からファイルにアクセスできないため、自宅へ仕事を持ち帰ることが多い教師には不評だった。OSをリナックスに入れ替えることも試みたが、使い勝手が違うため生徒や教師はなじめなかった。

 1万4000台の時代遅れのコンピューターの作業速度と作業効率を低コストで向上させるにはどうするべきか。解決策となったのが、IBMのクラウド・コンピューティングサービスだ。

 サービス導入のおかげで「何年間もしまいっ放しのコンピューターが再び日の目を見た」と、ホーンは言う。クラウド化に必要なのはCD‐ROM1枚。おんぼろコンピューターに挿入してパスワードを打ち込めば、インターネット上のサーバーに接続できる。

 以前はメモリー容量や作業処理速度の問題で使えなかったソフトも使えるようになった。なかでも人気なのが、学級の枠を超えて大容量の動画を共有できるソフトだ。

 1万人もの生徒が同時にオンライン授業を受けたり、インターネット上の動画を見たりするには、大規模な同時アクセスに対応できるシステムが欠かせない。クラウドなら、その点も問題なしだ。

デジタル・デバイドも解消

 複数のソフトを同時に使用することも可能になったため、ホーン自身の仕事の能率も上がった。今ではビデオ会議をしながらグーグルのメールサービス「Gメール」をチェックしつつ、生徒の成績表や出席簿を作成できる。

「生産性が5割は向上した気がする。どこからでもアクセスできるから、もう仕事をするためにオフィスへ行かなくていい。好きなときに好きな場所で仕事ができる」

 パイク郡全体にとっても、クラウド・コンピューティングが持つ意味は大きい。「クラウドがなかったら、学区内にあるコンピューターの多くが廃棄処分になっていただろう」と、ホーンは話す。

 彼女によれば、クラウドはパイク郡に住むすべての子供の学習体験も変えている。「アクセスの平等」が実現したためだ。

 クラウドのおかげで貧しい地域の生徒も、より恵まれた学区や私立学校の生徒が日常的に使うソフトウエアに手が届くようになった。マイクロソフト・オフィスのアプリケーションを利用したり、オンラインで個人授業を受けたり、ネット上の図書館サービスやメールサービスを活用したり。おんぼろコンピューターでも、普通のコンピューターと同じことができる。

 しかも、クラウド・コンピューティングサービスの利用に掛かる費用は約18万ドル。コンピューターを総取っ換えするコストと比べれば、微々たるものだ。

[2009年10月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

26年度予算案、過大な数字とは言えない=片山財務相

ビジネス

午前の日経平均は続伸、配当狙いが支え 円安も追い風

ビジネス

26年度予算案、強い経済実現と財政の持続可能性を両

ワールド

米、ナイジェリアでイスラム過激派空爆 「キリスト教
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中