最新記事

イサム・ノグチ(1904-1988)

インタビュー ザ・日本人

昭和天皇、渥美清、宮崎駿から
柳井正、小沢一郎、二宮和也まで

2010.01.21

ニューストピックス

イサム・ノグチ(1904-1988)

「私にとって意外性のないものは芸術ではない」

2010年1月21日(木)12時11分

[1986年12月18日号の掲載記事を2006年2月1日号にて再録]

 プロダクト・デザインから庭園まで幅広い分野を手がけ、「ミケランジェロの再来」と評された彫刻家、イサム・ノグチ。死後も国際的に根強い人気を誇り続け、ニューヨークと香川県にある彼の名を冠した庭園美術館には多数の人々が訪れる。一年の半分を過ごした香川県牟礼の工房で、本誌のインタビューに応じた。

----芸術家としての信条は?

 意外性が大事だと思う。創作するときに起こる予期せぬハプニングだ。私にとって意外性のないものは芸術ではない。芸術とは外部から刺激を受けてもたらされる変革であり、芸術家はその変革に形を与える道具にすぎない。

 彫刻家として私はほとんど異端者だ。型にはまったものは作らない。混血であることが、私の異端に輪をかけている。

----石を使うようになったきっかけは?

 60年間石を彫ってきた。(コンスタンティン・)ブランクーシ(との出会い)がきっかけだった。

 日本では焼き物もかなりやったが、石のほうが長時間格闘することになるので満足感が大きい。

 私の造る庭園は、石なしには語れない。石を彫るのも石の利用法の一つだが、ただそれだけのことだ。私が庭園と言うとき、実は空間における彫刻を指している。空間は彫刻にとって不可欠の要素だと考えついたのは私が最初だ。

----「長時間格闘する」とはどういう意味か。

 私は石に向かうのに近代的工具を使うし、人に手伝ってもらうこともある。そして82歳という私の年齢からくる経験と、それなりの体力をつぎ込む。つまり、石に立ち向かう私の手段は、年齢からくる体力という点では限られてはいるが、経験なら豊富にある。

 弱気になったり、石のいいなりになっては駄目だ。石にいうことを聞かせなければ。優柔不断だったり、石と妥協する姿勢を見せれば、石の餌食にされてしまう。石に見放されるのだ。逆に、石をコントロールの利くパートナーにできるほど自分をコントロールできれば......。暴れ馬のようなものだ。腰を据えて、手綱をしっかり握り締めていなくては。

----あなたにとって日本はどのような意味をもっているのか。

 日本で仕事をするのは好きだ。どんな彫刻であれ手伝ってくれる友人たちがいる。日本人は良心的だからずさんな仕事はしない。

 日本人は愛国的で、それが日本の伝統の一部をなしている。日本が世界に及ぼす影響は素晴らしいと思う。日本が世界に与えたものはどれも驚嘆すべきものだ。日本の文化は経済の文化であり、実用性に全力を注ぐ文化だといえる。 文化というものは、その発展の過程でお荷物をたくさんかかえ込む。アメリカは近代国家として、不要物だらけになってしまった。日本もそんながらくたをかかえ込みつつあるようだが、残念なことだ。

 二流のアメリカ人に成り下がることさえなければ、日本人は世界の人々の考え方や生き方に、今まで以上に貢献できるはずだ。

 私は決して反米ではない。ただ言いたいのは、日本人がすでに西洋社会にこれだけの影響を及ぼしているのだとすれば、今度は己を変革し、自己をいま少し追求してはどうかということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり

ビジネス

米9月製造業生産は横ばい、輸入関税の影響で抑制続く

ワールド

イスラエル、新たに遺体受け取り ラファ検問所近く開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中