最新記事

オバマ大統領が就任

本誌が選ぶ10大ニュース

イラン、インフル、ノーベル賞・・・
2009年最もお騒がせだったのは?

2009.12.22

ニューストピックス

オバマ大統領が就任

アメリカ史上初の黒人大統領が世界中の期待を背負って1月20日に就任した

2009年12月22日(火)12時07分
ジェイコブ・ワイズバーグ(スレート・グループ編集主幹)


ビジョンの欠けたオバマの就任演説

経済危機の最中という非常事態であっても、政府の役割についての哲学は不可欠。オバマの演説に感じた「物足りなさ」は何だったのか


 いまアメリカ合衆国大統領となった自分が描く理想の政府像とは何か。就任演説は、それを雄弁に語る絶好の機会だ。

 1965年のリンドン・ジョンソンは、連邦政府の役割を広げようと呼びかけた。そうして経済的・人種的な不公正に立ち向かおう、「この偉大な富をもつ国に、絶望的貧困に生きる家族がいてはならない」から、と。81年、ロナルド・レーガンはこのジョンソン流の「偉大な社会」に異を唱える。「政府の肥大化をチェックし、逆転させる」と宣言した。

 あいにくレーガン時代にも政府は小さくならなかったが、チェック機能は働いた。以後の歴代大統領も、政府を大きくしないという同じ路線を踏襲してきた。

 89年のジョージ・H・W・ブッシュは富める者の自発的な「寛容」に期待し、93年のビル・クリントンは政府と国民の「新たな社会契約」を提唱し、国民の自己責任を強調した。01年のジョージ・W・ブッシュは、基本的に父の路線を引き継いだだけだ。

 09年のバラク・オバマはどうだったか。「問題は政府の大小ではない、有効に機能しているかどうかだ」とオバマは言った。「国民が職に就き、適切な医療を受け、老後を安心して暮らせるよう、きちんと手助けしているかどうか。答えがイエスなら(その政策は)続ける。ノーならやめる」

 主義主張にとらわれないオバマらしいアプローチといえる。私たちの耳にも、冷静で分別をわきまえた発言と聞こえた。

どんどん強大になる政府

 とはいえ、就任式の陶酔感も薄れた今、あらためて演説を読み直してみると、一国を統治する哲学としてはいかにももの足りない。「なんであれ機能していればOK」というだけでは、政府の役割に関するビジョンと呼べない。

 こうした実効性重視のリベラリズムでは、行動と意図、手段と目的が取り違えられかねない。この演説だけでは、最低限の年金支給や国民皆保険の実現、収入格差の是正が政府の責務なのかどうかもはっきりしない。

 オバマはまず、自分の政府が何をめざすのかを明確に示す必要がある。どんな政策が有効で、予算がどれだけ確保できるのかは、その先の問題だ。

 連邦政府の役割とは何か。今はそれを明確にすることが求められている。拡大する経済危機に対処するため、連邦政府はどんどん強大になりつつある。公共事業による雇用創出や銀行の国有化などに踏み切れば、政府の役割は大恐慌以来の大きな、そして金のかかるものになっていく。

 今は非常事態だからやむをえないのかもしれない。だが、このままだと政府と市場の関係が根本的に定義し直され、その影響は危機が終息した後まで続くと懸念する声もある。

 大統領としては、何が一時的な対策で何が恒久的な対策かを見極める必要がある。フランクリン・ルーズベルトのニューディール政策で設置された「農務省農村電化部」は、大半の家庭に電気が通じた今も名称を変えて残っている。開発の遅れた地域を近代化すべく33年に創設された「テネシー川流域開発公社」もまだ残っている。政府を拡大するのは簡単でも、縮小するのは不可能に近い。

リンカーンの言葉を読め

 連邦政府は何をすべきで、何をすべきでないのか。この点について、オバマの考えはまだみえてこない。積極的に動くべきか、役割を限定すべきか。この両極の間でオバマは揺れ動いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム次期指導部候補を選定、ラム書記長留任へ 1

ビジネス

米ホリデーシーズンの売上高は約4%増=ビザとマスタ

ビジネス

スペイン、ドイツの輸出先トップ10に復帰へ 経済成

ビジネス

ノボノルディスク株が7.5%急騰、米当局が肥満症治
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中