最新記事

イスラエル軍、ガザに侵攻

本誌が選ぶ10大ニュース

イラン、インフル、ノーベル賞・・・
2009年最もお騒がせだったのは?

2009.12.22

ニューストピックス

イスラエル軍、ガザに侵攻

イスラエル軍は08年末から、イスラム過激派ハマスが支配するパレスチナ自治区ガザを空爆していたが、09年1月に地上侵攻を開始。約3週間にわたる激しい戦闘のなかで多くの民間人が犠牲になった

2009年12月22日(火)12時03分
ロッド・ノードランド(元バグダッド支局長)

無残 イスラエル軍の攻撃で死亡し、がれきの中から引き上げられるサモーニ一族の1人の遺体(09年1月18日、ガザ) Mohammed Salem-Reuters


ガザ侵攻の「真実」死の村を見た

1月4日の早朝、イスラエル軍がやって来て、周囲は瓦礫の山になり、一族29人が命を奪われた──虐殺疑惑の現場で生存者が記者に語った凄惨な体験


 2週間前まで「わが家」だった瓦礫の上に腰を下ろし、パレスチナ人の農民ラフィク・サモーニ(39)はまずいオレンジをかじっていた。「私たちには家がない。食べる物もない。あるのはこれだけだ」。そう言って、コンクリートの破片の山と穴だらけの地面が続く一角にぽつんと1本だけ立つオレンジの木を手で示した。「家族も親戚もいなくなった」

 パレスチナ自治区ガザのゼイトゥン地区がイスラエル軍の攻撃を受けたのは1月4日。イスラエルがガザで地上戦を始めた翌日の朝だった。この攻撃により、サモーニ一族の29人が死亡。ゼイトゥンでは、この一族のほかにも19人が命を奪われた。

 48人の遺体すべてが回収できたのは、記者がラフィクに会った1月19日だ。その前日にようやく、イスラエル部隊が引き揚げたのだ。それまで2週間、遺体は放置されたままだった。あたりには、死の臭いが充満していた。

 生き残った人たちが語る出来事はあまりにおぞましい。生存者によると、イスラエル軍は100人以上の住民を一つの建物に集めておいて、翌日その建物に砲撃と爆撃を加えた。ある家族が身を潜めていた家では、その家の主の男性と4歳の男の子が銃で撃たれて殺されたという。

 救急隊がようやく現地に入れたのは、攻撃から丸2日たってから。そのとき救護スタッフは、親の遺体にすがりつく子供たちの姿を目のあたりにしたという。赤十字国際委員会は1月8日、救急隊の現地入りをイスラエル軍が妨げたと異例の非難声明を発表した。

 イスラエル国防軍の広報担当者アビタル・リーボビッチは、そのような事実は把握していないと述べたが、調査すると語った。「非戦闘員のパレスチナ人を意図的に標的にしたことはまったくない。兵士たちが父親と子供に発砲して射殺したというのは......正確性を欠く情報なのではないか」と、リーボビッチは言う。「住民を一つの建物に集めて殺すなどということが本当にあると思うか」

 ゼイトゥン地区のサモーニ一族の家々があったあたりは、建物が崩壊し、地面は無残にえぐられている。そこに一つの集落があった面影はもはやない。モスク(イスラム礼拝所)は瓦礫の山と化し、鶏小屋はねじ曲がったアルミの塊に変わり果てた。いたるところにニワトリの死骸が転がり、果物の木は戦車やブルドーザーで根こそぎ引き抜かれている。

命ごいを無視して射殺

 2軒だけ、無傷で残っている家がある。イスラエル兵の詰め所に使われていたらしい。家の中には、兵士たちの落書きが残っていた。ベトナム反戦運動でよく用いられた平和のシンボルマークの上に、ヘブライ語で「アラブ人に死を」「アラブ撲滅の戦いは最高だ」「善良なアラブ人は死んでいるアラブ人だけ」と書かれていた。

 生存者が口をそろえて強調するのは、イスラム原理主義組織ハマスとは関係がないということだ。ガザ攻撃に踏み切った理由としてイスラエル政府があげたのは、ガザがハマスによるイスラエルへのロケット弾攻撃の拠点になっているという主張だったが、ゼイトゥン地区がハマスのロケット弾の発射場所に使用されたことはないと住民たちは言う。

 それでもイスラエル軍は地上戦を開始した翌朝、夜明けとともに戦車と歩兵でゼイトゥンを包囲。家々に向けて無差別に砲撃を開始したと、生存者たちは語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ首相、米国との関税協議継続 「反撃より対話」

ビジネス

ECB、インフレ目標乖離に過剰反応すべきでない=オ

ワールド

トランプ氏がプーチン氏と電話会談、17日にウ大統領

ワールド

イスラエルとハマス、合意違反と非難応酬 ラファ再開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中