最新記事

アフガニスタン大統領選でカルザイ再選

本誌が選ぶ10大ニュース

イラン、インフル、ノーベル賞・・・
2009年最もお騒がせだったのは?

2009.12.22

ニューストピックス

アフガニスタン大統領選でカルザイ再選

反政府勢力タリバンによる妨害や不正票のために大統領選は大混乱。8月の第1回投票の後、11月の決戦投票前に対立候補が辞退し、現職ハミド・カルザイの当選が決まった

2009年12月22日(火)12時00分
ロン・モロー(ニューデリー支局長)


「楽勝」アフガン大統領選で不正の愚

合法的に当選できたはずの選挙で現職カルザイ陣営に不正疑惑が浮上、大統領が大恥をさらした

 アフガニスタンで8月20日に実施された大統領選で現職ハミド・カルザイの不正疑惑が持ち上がると、アフガニスタン政府と同盟国との関係はたちまち、ぎくしゃくし始めた。

 オバマ米政権はカルザイに勝利宣言しないよう忠告。国連が後ろ盾になっている不服審査委員会(ECC)は一部の票について再集計を指示。より良い統治を求め、公正な選挙を期待していた国民は失望を隠せない。

 勝利を手にしたいあまりに不正に走った大統領候補はこれまでにもいた。だが解せないのは、そんな手段に出なくても合法的に当選できたはずのカルザイがなぜ不正に走ったのか、だ。

 カルザイ主導で行われたのか、熱狂的な支持者の仕業なのかは分からない。ずっとこのまま闇に葬られる可能性もある。いずれにせよ、ECCや市民らの報告によれば、カルザイのために大規模な票の捏造が行われたのは確からしい。

 州知事や地方長官、警察長官や彼らと関係の深い軍閥に至るまで、カルザイを支持する地方の役人が、票の水増しや脅迫などの不正行為に関与したとみられている。

 特に国内最大の民族パシュトゥン人が多い南部と東部での不正が目立つ。だがパシュトゥン人のカルザイは、こうした地域では何もしなくても勝ったはずだ。

 ECCには2500件を超える不正の申し立てが寄せられた。このうちの約700件が選挙結果を左右したとみられる。

 だから開票結果に驚きはなかった。カルザイ寄りといわれる大統領選挙実施機関の独立選挙委員会は9月8日、カルザイの圧倒的な勝利を宣言。開票率92%の時点で、カルザイの得票率は54%(04年に行われた同国初の大統領選で得た55%をわずかに下回っただけ)。次点のアブドラ・アブドラ前外相は28%にとどまった。

選挙前の支持率は40%以上あった

 ECCはすぐに調査の結果「不正の明白な証拠」が見つかったと発表。有権者登録の数よりも投票数が多かった投票所で部分的に再集計を行うよう指示した。ECCは既に不正票20万を無効にしたことも明らかにした。事態を収拾し、勝者を発表するまでには数週間かかるという。

 決選投票にもつれ込まずに済む過半数をカルザイが軽々と獲得。この結果を疑う理由は、州や地域レベルで不正の報告が相次いだからだけではない。

 カルザイ人気に陰りが見えているのは多くのアフガニスタン市民が認めるところ。今の彼は5年前とは異なり、簡単に勝利できるほど新鮮で有望な人気者ではない。前回選挙が行われた5年前、国民はこの国の将来に大きな期待を抱いていた。人々はカルザイを、国際社会から支援を引き出し、国に安定と発展をもたらしてくれる唯一の人物とみていた。

 しかし大統領就任後、カルザイの政治家としての運命は急激に傾いていく。人々は(無能とは言わないまでも)腐敗にまみれ、公約を実現できない政府を非難し、カルザイへの支持をやめた。

 だが国民の大半は結局、長所も短所も織り込んでカルザイに投票しただろう。民族や地域ごとに分裂した国をまとめられるのは彼しかいないと考えて。米共和党系の民間団体「国際共和研究所」が選挙前7月に行った世論調査では、カルザイの支持率は44%で、アブドラの26%を上回っていた。


 対立候補のアブドラは眼科医。彼は90年代のアフガニスタン内戦でタリバンと対峙した北部同盟のタジク人軍閥と非常に近い関係にある。タジク人軍閥は今もアフガニスタン北部を支配し、アブドラの有力な支持基盤となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中