最新記事

「クラウド化」のエコなIT基地は北の大地が育む

温暖化「うま過ぎる話」

エコ助成,排出権,グリーンニューディール
環境問題はなぜ怪しい話や
誤解だらけなのか

2009.11.24

ニューストピックス

「クラウド化」のエコなIT基地は北の大地が育む

「クラウド化」を支えるデータセンターがヨーロッパ北部の小国に建設されるのはなぜ?

2009年11月24日(火)12時05分
クリストファー・ワース

 ハーバード大学の研究チームが正しければ、「カーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)」という言葉をグーグルで検索するだけで大気中に7グラムの二酸化炭素(CO2)が排出されるという。

 グーグルはこの主張に反論しているが、いずれにせよIT(情報技術)産業が地球温暖化の大きな原因の1つになりつつあることは間違いない。IT産業のCO2排出量は、今や総排出量の2%。これは航空機の排出量に匹敵する。

 この割合は、今後ますます上昇しそうだ。いわゆる「クラウド化」が進行すれば、当然そうなる。

 簡単に言うとクラウド化とは、デジタル情報が1台1台のパソコンの中ではなく、コンピューターネットワークに蓄えられるようになること。この新しいトレンドを意識して、グーグルなどのIT関連企業は巨大なデータセンターを建設し始めている。大量のデータを処理するコンピューターは膨大な量のエネルギーを消費し、そのコンピューターを冷却するためにさらにエネルギーが必要になる。

 一方、ここにきてアメリカや西欧の国々はカーボン・フットプリントの削減に向けて動き始めた。そうなると、これまでどおりの場所にデータセンターを設置するのは難しくなる。

 そこで脚光を浴びているのが、ヨーロッパ北部の国々だ。デジタル情報は保管場所を選ばないが、エネルギーはそれがつくられる場所の近くで使うほど無駄なく使用できる。その上、寒い土地はコンピューターの冷却に要するエネルギーが少なくて済む。こうした点を追い風に、ヨーロッパ北部のいくつかの国はITビジネスの誘致を目指している。

 環境に優しいデータセンターの建設に向けた動きが活発な地域の1つがスコットランドだ。インターネット・ビレッジズ・インターナショナルという企業は潮力発電装置の開発会社と協力して、スコットランドの荒れ海から得たエネルギーで、データセンターを稼働させる技術の開発を進めている。この地域では、潮力発電や風力発電などの再生可能エネルギーで発電量の20%近くを賄っている。

洋上センターの計画も

 アイスランドは、スコットランド以上に有利かもしれない。寒冷な気候のおかげでコンピューターを冷却するエネルギーが少なくて済むだけでなく、この国では電力の100%を水力発電と地熱発電で賄っている。しかもそのうちの20%未満しか実際の国民生活では利用されていない。

 有利な点はほかにもある。アイスランドは金融危機で国全体が破産状態に陥るほどの大打撃を受けたが、それより以前にヨーロッパ本土と北米との間に海底光ケーブルを敷設していた。「アイスランドのような(小さな)国にとっては、かなり思い切った投資だった」と、首都レイキャビクの郊外にデータセンターの建設計画を進めているバーン・グローバル社のジェフ・モンローCEO(最高経営責任者)は言う。

 バーン社が造るデータセンターは面積3万7000平方メートルで、つぎ込む費用は3億ドル。データセンターが稼働し始めればCO2排出量を年間5万トン削減できると、同社では予測している。

 ただし、スコットランドやアイスランドなど北の国々の独壇場というわけではない。グーグルは08年、風力と潮力で必要なエネルギーをつくり、海水でコンピューターを冷やす洋上データセンターの特許を取得している。

 どちらにしても、世界のデジタル情報は近い将来、今までとはだいぶ雰囲気の違う場所に保管されることになりそうだ。    

[2009年9月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中