最新記事

マット・フラナリー(アメリカ/融資)

社会起業家パワー!

社会貢献しながら利益も上げる
新世代のビジネスリーダーたち

2009.10.13

ニューストピックス

マット・フラナリー(アメリカ/融資)

ネットを駆使してプチ融資の橋渡し

2009年10月13日(火)11時38分
マルコム・ビース

 オレゴン州育ちのマット・フラナリー(30)は、子供のころから起業家をめざしていた。「いかれたとっぴなアイデアをいつも思いついていた」というフラナリーは、毎日一つ新奇なアイデアをひねり出すというノルマを自分に課していたこともあるという。

 そんなフラナリーが自分の天職に出合ったのは03年。当時は婚約中だった今の妻ジェシカに説得され、アフリカを訪れたときだ。

 ジェシカは東アフリカの小規模な起業家に融資や助成を行うプロジェクトにかかわっていた。もともと教会などを通じてアフリカの子供たちを財政支援する活動をしていた縁で、アフリカに関心があった2人は、1カ月間の旅行中に農村部の起業家に出会い、彼らを応援したいと考えるようになった。

 とりわけ印象深かったのは、ウガンダの村で魚を売っていたエリザベス・オマラとの出会いだ。オマラは、村から2時間ほどのビクトリア湖で捕れた魚を仲買人から仕入れていた。そのため儲けは少なく、子供に満足な食事を与えられない。湖までのバス代があれば、仲買人を通さずにすみ、十分な利益が出るはずなのに――。

 帰国後、フラナリーはアイデアを練った。インターネット上で広く投資を募り、現地のマイクロファイナンス(小口無担保融資)機関を通じて、オマラのような人々に融資してはどうか。

30カ国から選べる小口投資先

 このアイデアを元に、04年までにキバ(スワヒリ語で「合意」の意味)というサイトを立ち上げたが、夢を現実にするのは簡単ではなかった。「人に話しても意義をわかってもらえず、当初は自宅で妻と2人で細々とやっていた」と言うフラナリー自身、軌道に乗るかどうか確信がもてなかった。「1年半頑張って、ようやくやっていけるめどが立った」

 社会貢献をしたい人と、経済的な自立のために少額の資金が必要な人。インターネットを活用すれば、この両者をうまくマッチングできる。貸し手は、キバのサイトで紹介されている小規模事業から投資先を選び、クレジットカードで出資する(最低25ドルからの小口出資で、利息はつかない)。

 キバはその資金を、現地のパートナーであるマイクロファイナンス機関(MFI)を通じて事業家に融資する。事業家はMFIにローンを返済、ローン期間(通常半年から1年)が終わった段階で資金は貸し手の元に返される。ローンの返済額や各事業の進展はキバのサイト上でチェックできる。

 実際、キバの成功のカギはインターネットにある。サイト上で返済実績を示すことで、信頼を確立できた(債務保証はないが、返済率は99・76%にのぼる)。ネットを利用することで、投資機関よりもリスクを恐れない個人投資家を引きつけることもできた。

 今ではキバは、創設者の予想をはるかに超えて「成長を遂げている」と、フラナリーは言う。世界約30カ国のMFIの運営者がキバのサイトに情報を次々にアップロード。投資家はそれを見て、イラク北部の美容院やエクアドルの仕立て店、アフガニスタンのパン屋などに出資する。「世界規模の活動だ」とフラナリーは言う。

 ちなみに魚売りのオマラは、キバの融資を受けて湖まで仕入れに行けるようになった。地域一帯の村々で手広く商売をし、今では子供に十分な食事を与え、教育も受けさせている。そしてフラナリーは、自分のアイデアへの自信を胸に事業を拡大させていく。

[2007年7月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中