最新記事

マリー・ソー(中国/人道支援)

社会起業家パワー!

社会貢献しながら利益も上げる
新世代のビジネスリーダーたち

2009.10.13

ニューストピックス

マリー・ソー(中国/人道支援)

現金収入が得られる知識を授ける

2009年10月13日(火)11時35分
柯昆林

 米日用品大手のプロクター・アンド・ギャンブル社(P&G)と国連で働いていたマリー・ソー(28)は、民間企業のように利益を出しつつ、社会に奉仕できる仕事を求めていた。

「ずっと人の役に立ちたかった」と、香港出身のソーは言う。「でも国連時代に出合った多くのNGOは、問題解決のためにカネと人を送り込むだけ。現地の人に自力で問題を解決する方法を教えようとはしなかった」

 そこでソーは昨年、ハーバード大学ケネディ行政大学院時代の同級生とともに「ベンチャーズ・イン・ディベロップメント(VID)」というNPOを設立した。二つの事業を柱に、「施し」ではない持続可能なサポートを模索している。

 一つ目の柱は農業関連プロジェクトへの投資。そこで得た利益を使って、すでに進行中の事業を継続させたり、新たなプロジェクトを立ち上げたりする。

 もう一つの柱は、人々に知識を授けること。貧困層に新たな技能を教える活動を通じて、寄付金を待つ代わりに、彼らが自力で生活を向上させられる手段を提供する。

 VIDは現在、中国の雲南省西部に暮らすチベット族のために、彼らの唯一の生活の糧であるヤク(ウシ科)を活用した事業に取り組んでいる。「ヤクから現金を生み出す方法を考えた」と、ソーは言う。「医薬品が足りないのも教育を受けられないのも、彼らに現金収入がないことが原因だから」

民間企業は私に向かなかった

 そこで注目したのが、ヤクの毛とミルクだ。ヤクの毛はカシミヤのように柔らかいため、希少価値の高い織物ができる。

 ミルクはVIDが融資した工場に運ばれ、さまざまな種類のオーガニックチーズ製品に生まれ変わる。これらのチーズは北京のスーパーの店頭に並び、2軒のレストランで食材として採用されている。

 ヤクのプロジェクトが本格化した今、ソーは利益という明確な結果を出したいと考えている。「今年の収支はとんとんになりそう。起業してからまだ1年ちょっとだけど、一人ひとりの生活に変化が見られることが何より大切」

 支援しているチベット族の人々が最近、収入の一部でパソコンを買った。外部へのアクセスを可能にし、子供たちに教育の機会を与えるチャンスになるだろう。

 人々に新たな選択肢をもたらす喜びが、ソーの情熱の源だ。「たとえ私が賛同できないことにお金を使っても、その選択肢を与えられたことをうれしく思う」

 ソー自身の今後の選択は明確なようだ。「民間企業は私には向いていなかった。自分の好きなことをできるのはとても楽しい。それだけは変えるつもりはない」

[2007年7月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中