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鳩山政権と民主党ニッポンの進路
by トバイアス・ハリス
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「閣内内閣」は政権運営の切り札
首相に近い少人数の重要閣僚による「閣内内閣」の発足で、トップダウン式指導体制が始動する
[2009年9月6日更新]
2003年9月、民主党は政権交代後の政権運営構想をまとめた。総選挙で勝利したら5日以内に政権移行チームを立ち上げ、官僚主導から政治主導へと統治体制を変える基盤づくりにただちに着手する──。
新体制の要は主要閣僚の迅速な任命だ。そして、首相に近い少人数の重要閣僚による「閣内内閣(インナーキャビネット)」を発足させ、閣僚全員が閣議決定への拒否権をもっていた従来の合意システムに代わって、トップダウンのリーダーシップ体制が始動する、という筋書きだ。
8月30日の総選挙を制した鳩山由紀夫は当初、組閣は政権発足後に行うとしていた。だが、結局は6年前からの党の構想に立ち戻り、すでに官房長官と3人の主要閣僚の起用を決めている。
小沢幹事長に権限を集約するメリットとは
民主党政権の仕組みを理解する際には、閣内内閣の概念が重要なカギを握っているように思える。
先日書いたように、鳩山は大統領的な首相にはならないだろう。行政権を握るのは鳩山だけでなく、外相になる岡田克也や財務相の藤井裕久、国家戦略局担当相の菅直人(民主党副総理と政調会長も兼務)などからなる少人数の有力者集団になるだろう。そして、この閣内内閣には社民党と国民新党の閣僚も参加することになるはずだ。
要するに、鳩山の政権運営には力強い助っ人がいるわけだ。私は、この体制は首相一人が最終的な意思決定を行うタイプのトップダウン方式より優れていると思う。党内の一般議員からの信頼が厚い菅と岡田が加わることで、内閣の決定に対する議員の支持も得やすくなるだろう。
もっとも、内閣と党の連携を円滑に進めるために、それ以上に重要なのは小沢一郎の役割だ。
鳩山は小沢と9月5日に会談し、小沢が幹事長として選挙対策だけでなく、行政府と立法府をつなぐ国会対策も全面的に担うことを確認した。国会の議長や党の国会対策委員長の人事も小沢に一任される。小沢は、自民党時代に多くの議員に分散していた広範な機能を一元化することで、一つの強大な拒否権を手に入れる決意を固めたようだ。
以前にも論じたように、問題はこの拒否権を武器に小沢が何をするかだ。マスコミは民主党の小沢支配は避けられないと結論づけているようだが、私はまだわからないと思う。
党内のさまざまな機能(重要な財政機能も含む)を小沢幹事長に集約させた結果、党は内閣よりずっと弱い立場になる可能性がある。もし小沢が内閣の意思を尊重し、議員の自由を抑え込むことに自身の権力を使えば、という条件つきだが。
ブレア的な「独裁体制」に陥る危険も
小沢自身も懸念の声が上がっていることを認め、首相の意思を尊重すると明言している。ただし、安心するのは早い。民主党政権が船出した後の小沢の振る舞いを注視する必要がある。
もし小沢が政府の方針に公に異議を唱えることがあっても、菅と岡田という2人の重鎮と鳩山を含む閣内内閣は、小沢に対抗できる立場にあるはずだ。
9月16日の政権発足後、こうした政策決定体制が本当に実現すれば、自民党時代よりずっと合理的なシステムが生まれるだろう。小沢が党内を掌握すれば、議員が官僚と不適切な接触をしたり、内閣を貶める言動をした際には罰を与えられる。少人数の閣僚の手に権力が集約されれば、省庁の言いなりになる閣僚が1人や2人出てきたとしても、内閣の政策実行力は損なわれないだろう。
政策決定システムを一元化して合理化しようという民主党の構想は、イギリスの政治体制を参考にしている。6日に放映されたフジテレビの「新報道2001」は、この構想によって民主党がイギリスと同じように「選挙で選ばれた独裁体制」に陥る可能性があると警告した。
その際に画面に映し出されたのは、炎が燃え盛るイラクの映像。トニー・ブレア英首相がジョージ・W・ブッシュ米大統領と手を組み、世論の反対を押し切ってイギリス軍をイラクに派遣したのは、独裁的な権限をもっていたためだ、という主張だ。
権力を集中させすぎないことは重要だ。だが自民党政権が権力の綱引きにおぼれた挙げ句に麻痺状態に陥ったことを考えれば、「選挙で選ばれた独裁体制」も当面はそれほど悪いものではないかもしれない。