最新記事

「閣内内閣」は政権運営の切り札

オブザーヴィング
民主党

気鋭の日本政治ウォッチャーが読む
鳩山政権と民主党ニッポンの進路
by トバイアス・ハリス

2009.09.14

ニューストピックス

「閣内内閣」は政権運営の切り札

首相に近い少人数の重要閣僚による「閣内内閣」の発足で、トップダウン式指導体制が始動する

2009年9月14日(月)18時30分

[2009年9月6日更新]

2003年9月、民主党は政権交代後の政権運営構想をまとめた。総選挙で勝利したら5日以内に政権移行チームを立ち上げ、官僚主導から政治主導へと統治体制を変える基盤づくりにただちに着手する──。

 新体制の要は主要閣僚の迅速な任命だ。そして、首相に近い少人数の重要閣僚による「閣内内閣(インナーキャビネット)」を発足させ、閣僚全員が閣議決定への拒否権をもっていた従来の合意システムに代わって、トップダウンのリーダーシップ体制が始動する、という筋書きだ。

 8月30日の総選挙を制した鳩山由紀夫は当初、組閣は政権発足後に行うとしていた。だが、結局は6年前からの党の構想に立ち戻り、すでに官房長官と3人の主要閣僚の起用を決めている。

小沢幹事長に権限を集約するメリットとは

 民主党政権の仕組みを理解する際には、閣内内閣の概念が重要なカギを握っているように思える。

 先日書いたように、鳩山は大統領的な首相にはならないだろう。行政権を握るのは鳩山だけでなく、外相になる岡田克也や財務相の藤井裕久、国家戦略局担当相の菅直人(民主党副総理と政調会長も兼務)などからなる少人数の有力者集団になるだろう。そして、この閣内内閣には社民党と国民新党の閣僚も参加することになるはずだ。

 要するに、鳩山の政権運営には力強い助っ人がいるわけだ。私は、この体制は首相一人が最終的な意思決定を行うタイプのトップダウン方式より優れていると思う。党内の一般議員からの信頼が厚い菅と岡田が加わることで、内閣の決定に対する議員の支持も得やすくなるだろう。

 もっとも、内閣と党の連携を円滑に進めるために、それ以上に重要なのは小沢一郎の役割だ。

 鳩山は小沢と9月5日に会談し、小沢が幹事長として選挙対策だけでなく、行政府と立法府をつなぐ国会対策も全面的に担うことを確認した。国会の議長や党の国会対策委員長の人事も小沢に一任される。小沢は、自民党時代に多くの議員に分散していた広範な機能を一元化することで、一つの強大な拒否権を手に入れる決意を固めたようだ。

 以前にも論じたように、問題はこの拒否権を武器に小沢が何をするかだ。マスコミは民主党の小沢支配は避けられないと結論づけているようだが、私はまだわからないと思う。

 党内のさまざまな機能(重要な財政機能も含む)を小沢幹事長に集約させた結果、党は内閣よりずっと弱い立場になる可能性がある。もし小沢が内閣の意思を尊重し、議員の自由を抑え込むことに自身の権力を使えば、という条件つきだが。

ブレア的な「独裁体制」に陥る危険も

 小沢自身も懸念の声が上がっていることを認め、首相の意思を尊重すると明言している。ただし、安心するのは早い。民主党政権が船出した後の小沢の振る舞いを注視する必要がある。

 もし小沢が政府の方針に公に異議を唱えることがあっても、菅と岡田という2人の重鎮と鳩山を含む閣内内閣は、小沢に対抗できる立場にあるはずだ。

 9月16日の政権発足後、こうした政策決定体制が本当に実現すれば、自民党時代よりずっと合理的なシステムが生まれるだろう。小沢が党内を掌握すれば、議員が官僚と不適切な接触をしたり、内閣を貶める言動をした際には罰を与えられる。少人数の閣僚の手に権力が集約されれば、省庁の言いなりになる閣僚が1人や2人出てきたとしても、内閣の政策実行力は損なわれないだろう。

 政策決定システムを一元化して合理化しようという民主党の構想は、イギリスの政治体制を参考にしている。6日に放映されたフジテレビの「新報道2001」は、この構想によって民主党がイギリスと同じように「選挙で選ばれた独裁体制」に陥る可能性があると警告した。

 その際に画面に映し出されたのは、炎が燃え盛るイラクの映像。トニー・ブレア英首相がジョージ・W・ブッシュ米大統領と手を組み、世論の反対を押し切ってイギリス軍をイラクに派遣したのは、独裁的な権限をもっていたためだ、という主張だ。
  
 権力を集中させすぎないことは重要だ。だが自民党政権が権力の綱引きにおぼれた挙げ句に麻痺状態に陥ったことを考えれば、「選挙で選ばれた独裁体制」も当面はそれほど悪いものではないかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベラルーシ大統領、米との関係修復に意欲 ロシアとの

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一

ワールド

ロシア中銀、欧州の銀行も提訴の構え 凍結資産利用を

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中