最新記事

失われた理想への郷愁

外国人作家が愛した
日本

旅行記からSFまで――新視点で
読む 知られざるこの国の形

2009.08.07

ニューストピックス

失われた理想への郷愁

消えゆくニッポンを惜しみ、アニメのメッカに憧れる

2009年8月7日(金)12時58分
コリン・ジョイス

(左から)『日本人への旅』(The Inland Sea)、『ロング・アバウト・ジャパン』(Wrong about Japan)、『失われゆく風景を探して』(Looking for the Lost)

 日本人よりも日本に詳しいですね――日本について学び、日本語を話せる外国人は、よくそうお世辞を言われる。だが、ドナルド・リチーやアラン・ブースのような作家に向かってこうしたほめ言葉を使うのは、無礼ともいえる。

 深い知識と尽きない興味。この二つをそなえた彼らの作品は、日本に行ったことのない読者をも夢中にさせる魅力に満ちている。

 とくに、リチーが71年に書いた古典的名著『日本人への旅』(邦訳・阪急コミュニケーションズ)は、後の作家に大きな影響を残した。イギリス人作家ピコ・イエルは、ペーパーバック版の序文でこう述べている。「日本について文章を書く者はすべて、リチーの影から逃れられない」

 この本は、時代に破壊され、失われつつあるものに対するリチーの賛歌だ。瀬戸内海の無名の島々で、彼は「古い日本のなごり」を探し求める。

 ゆったりとした詩的な文章は、郷愁に満ちている。漁師や島の若者との会話が詳細に記されている。子供のとき、海で大きなタコに「乗った」という漁師の話。若者たちは自分たちの運命をとても気楽に受け入れていて、リチーを驚かせる。

 神話や伝説、歴史に関する知識が随所にちりばめられている(弁天様が好きだとの告白も)。笑いを誘うエピソードもある。猫の形をした岩があるというので探していたら、「逃げた猫を探している」と勘違いされ、あげくには「猫の像を探しているらしい」という話になり――。

 リチーが描いたもののいくつかは、今ではもう過去のものとなっている。のんびりと昼寝をする人々(「勤勉な日本では珍しいことで、最初は人々が『眠り病』にかかったのかと思った」と書いている)。ハンセン病の元患者から聞いた大島にある療養所の実態。アバンギャルドな喫茶店。サラリーマンのスーツ姿の真ん中を飾る派手なベルトのバックルは、リチーによれば個性の表れだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中