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外国人作家が愛した
日本
旅行記からSFまで――新視点で
読む 知られざるこの国の形
失われた理想への郷愁
消えゆくニッポンを惜しみ、アニメのメッカに憧れる
(左から)『日本人への旅』(The Inland Sea)、『ロング・アバウト・ジャパン』(Wrong about Japan)、『失われゆく風景を探して』(Looking for the Lost)
日本人よりも日本に詳しいですね――日本について学び、日本語を話せる外国人は、よくそうお世辞を言われる。だが、ドナルド・リチーやアラン・ブースのような作家に向かってこうしたほめ言葉を使うのは、無礼ともいえる。
深い知識と尽きない興味。この二つをそなえた彼らの作品は、日本に行ったことのない読者をも夢中にさせる魅力に満ちている。
とくに、リチーが71年に書いた古典的名著『日本人への旅』(邦訳・阪急コミュニケーションズ)は、後の作家に大きな影響を残した。イギリス人作家ピコ・イエルは、ペーパーバック版の序文でこう述べている。「日本について文章を書く者はすべて、リチーの影から逃れられない」
この本は、時代に破壊され、失われつつあるものに対するリチーの賛歌だ。瀬戸内海の無名の島々で、彼は「古い日本のなごり」を探し求める。
ゆったりとした詩的な文章は、郷愁に満ちている。漁師や島の若者との会話が詳細に記されている。子供のとき、海で大きなタコに「乗った」という漁師の話。若者たちは自分たちの運命をとても気楽に受け入れていて、リチーを驚かせる。
神話や伝説、歴史に関する知識が随所にちりばめられている(弁天様が好きだとの告白も)。笑いを誘うエピソードもある。猫の形をした岩があるというので探していたら、「逃げた猫を探している」と勘違いされ、あげくには「猫の像を探しているらしい」という話になり――。
リチーが描いたもののいくつかは、今ではもう過去のものとなっている。のんびりと昼寝をする人々(「勤勉な日本では珍しいことで、最初は人々が『眠り病』にかかったのかと思った」と書いている)。ハンセン病の元患者から聞いた大島にある療養所の実態。アバンギャルドな喫茶店。サラリーマンのスーツ姿の真ん中を飾る派手なベルトのバックルは、リチーによれば個性の表れだった。