最新記事

世界がとらえた3つの「昭和」

外国人作家が愛した
日本

旅行記からSFまで――新視点で
読む 知られざるこの国の形

2009.08.07

ニューストピックス

世界がとらえた3つの「昭和」

波乱の時代の日本社会を分析した古典的名著は今も色あせない

2009年8月7日(金)12時52分
マーク・オースティン(東京在住のジャーナリスト)

(左から)『日本/権力構造の謎』(The Enigma of Japanese Power)、『菊と刀』(The Chrysanthemum and the Sword)

 日本人にとって、昭和は懐かしい時代だろう。まだ法と秩序が守られていて、世の中は単純で、明日は今日よりもいいと信じられた時代だ。だが、幸せな世界しか映せない眼鏡ははずしたほうがいい。現実の昭和は激動の時代だった。

 とりわけアメリカやその同盟国との関係は波乱に満ちていた。戦争があり、冷戦があり、貿易戦争があった。そのときどきで、日本は欧米の敵であり、ぎこちない友人であり、不可思議な国だった。感傷とは無縁の関係である。

 第二次大戦から昭和天皇の死まで、それぞれの時代について、3人の欧米人が独創的な考察を行っている。いずれも古典的な解説書で、その価値は今も衰えない。

 まずはアメリカの人類学者ルース・ベネディクトが著した『菊と刀』(邦訳・現代教養文庫)。60年前の本で、そこに描かれた日本は今の日本とは似ても似つかない。電車内で化粧をしたり、携帯電話を片手に大声で話すことは、ベネディクトが描いた社会では考えられない行動だった。

 当時の日本は、義理や義務、仁や忠でがんじがらめだった。「誰にもしかるべき居場所がある。それが日本の信条だ」と、ベネディクトは解説している。

 ベネディクトが本を書いたのは、西洋人には未知の日本文化を解説するためだった。7世紀以来の日本の社会的・宗教的・政治的慣習を概観した本書は、46年にアメリカで出版され30万部を売った。49年に出た日本語版は、なんと230万部も売れた。

 『菊と刀』は、ベネディクトが第二次大戦中にアメリカ政府の求めで行った研究をもとにしている。戦争の勝利と戦後の占領政策を確実なものにするために、アメリカは日本を知る必要があったからだ。

 「『菊と刀』がアメリカの占領政策を決めたとは言うまい。だが指導層に日本人の国民性や風習を教え、より有効な占領政策を導いたのは確かだ」と言うのは、かつてベネディクトに師事したバージニア大学名誉講師のバージニア・ヘイアー・ヤングだ。

友情からバッシングへ

 意外なことに、ベネディクトは日本を訪れる機会をもてず、日系アメリカ人らの証言に頼るしかなかった。この点を問題視する批判派もいるが、遠くから対象を眺めただけのベネディクトが、ここまで正確な日本像を描き出したのは驚嘆すべきことだ。

 一方、77年に出版された『ザ・ジャパニーズ』(文芸春秋)の著者エドウィン・ライシャワーは、日本に深く根を下ろした人物だった。アメリカ人宣教師の息子として17歳まで日本で育ち、米ハーバード大学をはじめ、東京や京都などで学んだ。

 その学識の広さは、『ザ・ジャパニーズ』に明らかだ。日本の地理や歴史、社会、対外関係をわかりやすく紹介している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中