最新記事

米議会は夏休みを返上せよ

米医療保険改革

オバマ政権の「国民皆保険」構想に
立ちはだかるこれだけの難題

2009.07.27

ニューストピックス

米議会は夏休みを返上せよ

オバマ大統領の要請もむなしく医療保険改革法案の採決は夏休み明けに先送り。これでは有権者への責任を果たしているとは言い難い

2009年7月27日(月)17時09分
ケイティー・コノリー(ワシントン支局)

非常識の殿堂 「間に合いませんでした」で済ませてしまう議会に異議あり(ワシントンの連邦議事堂) Jonathan Ernst-Reuters

 ずっと以前、私はコンサルティング会社に勤めていた。いつも厳格な締め切りを課されて働いていた。間に合いそうにないときは遅くまで残業し、家族や恋人とのディナーを諦め、寝る時間も削った。日付が変わって午前3時まで、ときには朝まで徹夜で頑張った。

 締め切りを破るなんてもってのほか。「会議で結論が出なくて納期に間に合いません」などと顧客に言うことは許されない。お金を受け取っている以上、やることはやらないといけない。夏休みの予定が入っていても、締め切りに間に合わなければ諦めるしかない。

 ニューズウィークでも同じだ。記事の仕上がりが遅れているからといって、雑誌を1週間お休みにすることなどしない。私たちには読者に雑誌を届ける責任がある。振り返れば高校時代も、授業時間中に課題が終わらなければ、休み時間も教室に残って仕上げた。

 では、現在のアメリカの議会はどうか。審議が間に合わないとの理由で、議会は医療保険改革法案の採決の先送りを決めた。8月第1週以降は夏休みに入るので、採決は9月以降になるという。

国政の最重要課題なのに

 議員たちには、有権者に対する責任があるはずだ。国民の健康を守る責任があるはずだ。バラク・オバマ大統領は再三にわたり夏休み前の採決を求めていた。その期限に間に合わないのであれば、議員たちは夏休みを返上すべきだ。

 別に、なんでもかんでも政治家に噛み付けばいいと思っているわけではない。議員たちがたまにワシントンを離れて地元の有権者の声に耳を傾け、じっくり政策を練るのは大切なことだ。それに、議員には疲れて不機嫌でいるより、よく充電して快活でいてほしい。

 とはいえ、医療保険改革法案を8月第1週までに可決すべきだという「締め切り」は前から分かっていた。一筋縄でいかない問題なのは分かるが、財政と国民の健康を考えれば医療保険改革は目下の最重要課題と言ってもいい。

 おまけに、トマス・ダシュル前上院議員が私に言った言葉を借りれば、議員たちは何年も前から医療保険改革を議論してきた。ワシントン・ポスト紙でエズラ・クラインが鋭く指摘したように、上院財政委員会は1年以上にわたりこの問題に関して公聴会を開催し続けている。私に言わせれば、議会に言い訳の余地はない。

議会に必要な「締め切り感覚」

 ハリー・リード上院院内総務(民主党)とナンシー・ペロシ下院議長(民主党)は議会のリーダーとして議員たちに厳しい態度を示し、「仕事が終わるまで家に帰ってはいけません」と厳格な教師のように言い渡してほしい。

 いや、それを今後の先例にすべきだとは思わない。法律事務所や投資銀行の若手社員みたいに長時間労働をするのは、とうてい適切でもないし望ましくもない。けれど、ここ一番というときには残業や休日返上もやむを得ない場合がある。

 これまで議会はぐずぐず時間を掛け過ぎて、政策の実効性を弱めてしまったことが度々ある。オバマ大統領が言ったように、行動を起こさせるために期限を切らなくてはならないときもある。少なくとも議会が夏休みを取ることにより、医療保険改革が実現に一歩近づくことはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中