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核開発阻止に効くアメとムチの使い方
強気の裏で外圧には敏感に反応するイランに制裁と対話の併用で計画断念を迫れ
パワープレー 反米で核開発をめざすイランだが(テヘランのデモ) Morteza Nikoubazl-Reuters
いま中東のいたるところで、イランが政治秩序とアメリカの権益を脅かしている。アメリカに近づけば代償は高い----台頭する新興国として自信を手にしたイランは近隣諸国に対しそう警告している。
親米派レバノンのファド・シニオラ首相が苦境に陥ったときも、グルジアのミハイル・サーカシビリ大統領がロシアともめたときも、アメリカは手を差し伸べなかった。それどころか見捨てたではないか。しかし、イランは決して裏切らない。その私たちに逆らうというなら、それなりの覚悟をしてもらいたい----。
これほど威圧的な態度を取るイランが核兵器を手にしたら、どうなるだろう。だからこそアメリカの次期大統領は、あらゆる手段を駆使してイランの核開発を阻止しなくてはならない。ここで必要なのは、ジョージ・W・ブッシュ大統領とはまったく異なるアプローチだ。
現政権の政策は失敗だった。ブッシュが大統領に就任したとき、イランは核を保有していなかった。しかし彼が退任する現在、核保有が現実味を帯びてきている。核開発を阻止するために次のアメリカ大統領に残された時間と手段は限られている。
イランの核開発を食い止めるのはむずかしいが、手遅れというわけではない。イランが核を欲しがる理由が、自衛と攻撃の両面にあるのは明らかだ。しかしイランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、どんな犠牲を払っても核を手にするつもりだろうか。
イラク攻撃後は軟化した
歴史を振り返れば、イランは外圧次第で態度を変える国だ。脅威を感じれば自制し、好機とみれば強気の姿勢に転じる。
たとえば、03年にアメリカがイラクを攻撃したときだ。イランが8年に及んだ戦争で打ち負かせなかったサダム・フセインの軍隊を米軍が即座に制圧すると、イランはテヘラン駐在のスイス大使を通じてアメリカにメッセージを送った。アメリカがイランの核開発やシーア派武装組織ヒズボラとイスラム原理主義組織ハマスへの支援にいだく懸念を、なんとか払拭しようとしたのである。
これとは逆の反応を示した例もある。米政府は07年12月、イランの核開発計画が停止したと結論づける国家情報活動評価報告を発表した。このときイランのマフムード・アハマディネジャド大統領は、強硬姿勢を取ったことでアメリカが引き下がったと、勝ち誇ったように言った。歴史の教訓は明らかだ。圧力がないと確信すると、イランは攻撃的になる。
ここからわかるとおり、現在イランが核開発を推し進めているのは、ブッシュ政権の圧力が足りなかったためだ。あるいは、計画を断念することへの見返りが十分ではなかったためだ。
この3年間に国連がイランに科した制裁の主な対象は、核・ミサイル産業であり、経済ではない。そのためイランは制裁を無視できた。経済そのものをたたけば、イラン政府も選択を迫られる。
イラン経済には大きな弱点がある。主力の石油・天然ガス産業は、時代遅れの技術と大幅な投資不足に苦しんでいる。インフレと失業も深刻だ。こうした問題を制裁で狙い撃ちすれば、核開発には高いコストが伴うことにイランは気づくだろう。
中国やサウジと協調を
アメリカがイランに圧力をかけるには、国連の枠組みの外でヨーロッパや日本、中国と協力しなくてはならない。イランの核問題に大きな利害関係があるサウジアラビアの力も必要だ。
アメリカがイランとの対話に積極的になれば、ヨーロッパをはじめとするパートナーは圧力をかけやすくなる。これまでヨーロッパは、圧力をかけることでイランと対立するのを恐れていた。アメリカがイランと対話すれば、ヨーロッパの不安は解消するし、制裁強化を正当化することにもなる。
ヨーロッパには、イランとの貿易を控えれば、中国に利益を横取りされるという不安もある。しかし中国を自陣に引き込めば、それも解決するはずだ。
中国を引き込むには、サウジアラビアの存在がものを言う。サウジアラビアとイランのどちらかを選べとなれば、中国は前者を選ぶ。中国がサウジアラビアにもつ利権に比べれば、イランで得られる利益は微々たるものだ。
言うまでもないが、ムチを振るうときは、もう一方の手にアメを用意しておく必要がある。見返りを示さなければ、イランはアメリカのねらいが体制転換にあると考え、身を守るために核開発に走る。アメリカの次期政権はイランに対し、政治でも経済でも安全保障面でも、魅力ある提案を行うべきだ。ただし、核開発だけでなくテロ支援もやめるという条件をつけなくてはならない。
厳しいムチによってイランは、核開発を進めれば何を失うかを知る。アメによって、自制すれば何が手に入るかを知る。いま求められているのは、関係国の協力も得ながらムチとアメを同時に使いこなす政治手腕だ。
それが無理なら、究極の選択が待っている。核を手にしたイランと生きていくのか、それとも核保有を阻止するために武力攻撃に踏み切るかだ。
(筆者の近著に『ステートクラフト----アメリカの世界における地位を回復するために』がある)
[2008年12月31日号掲載]