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金正日の意図を読み解くカギ
北朝鮮の核・ミサイル実験の狙いを分析するために不可欠な情報源とは
09年5月10日に朝鮮中央通信が配信した、工場を視察する金正日の写真(実際の撮影日時は不明) KCNA-Reuters
北朝鮮には、どうやらアメリカの祝日に水を差したがるという妙な癖があるらしい。06年には7月の独立記念日の直前にミサイル発射実験を強行。そして今週の25日、戦没将兵追悼記念日の連休中に二度目の核実験を行った。
それが意図的か偶然かはともかく、北朝鮮の狙いについて各メディアでさまざまな分析がされている。たとえば金正日(キム・ジョンイル)総書記の健康不安説や後継者問題で体制の引き締めを念頭に実験を行った、という見方だ。理にかなった分析かもしれないが、北朝鮮の内政については確固たる証拠がほとんど入手できないのが現状だ(仕方がないことでもあるが)。
アメリカ人の学者や元外交官が訪朝し、北朝鮮の外交当局と会談した内容を大々的に発表することがある。その時の北朝鮮の現状や姿勢を判断する上で一つの材料ではあるが、100%の信憑性があるかどうかは微妙だ。
例えば1月半ばに訪朝したアメリカの北朝鮮問題専門家セリグ・ハリソンは、北朝鮮がプルトニウムを「兵器化」したと発言したが、「兵器化」という表現が具体的に何を指しているのかは不明のままだった。仮に核弾頭の小型化に成功したというメッセージだったとしても、大方の軍事アナリストは北朝鮮にそこまでの能力はまだないと見ている。
「北朝鮮に都合のいい情報を吹き込まれているだけなのに、『スクープだ!』とはしゃぐやからがたまにいるが、あまり信用しないほうがいい」と、ある元米外交官は指摘する。
カギは北朝鮮外務省声明文
では北朝鮮の意図を分析するにあたって、何が信頼できるのか。長年の対北交渉経験のある外交官らがもっとも信憑性があるとする情報源は、北朝鮮外務省や軍部の声明文だ。一見するとアメリカや日本、韓国の「敵視政策」に対する罵詈雑言や「衛星を軌道に乗せた」などの虚勢も確かにあるが、声明には北朝鮮指導部の本音や立場がはっきりと示されている。
これらの声明文をさかのぼると、北朝鮮指導部内で軍部が主導権を握り、金正日の意思決定において発言権が増したことが読み取れる。実際、今年初めから軍部が声明を発表する機会が格段に増えている。
例えば、今年のミサイル実験の直前の3月末、北朝鮮は国連安保理がミサイル実験に対する非難決議を採択すれば「敵視政策に対抗するための抑止力を強化し、これまで進めてきた朝鮮半島の非核化プロセスをすべて現状復帰させ、必要な対抗措置を取る」と表明していた。つまり、「無能力化」が進められていた寧辺の核施設の復旧と、核開発計画の前進だ。
また、北朝鮮はこれまでの6カ国協議や米朝交渉で要求を変えているようにも見えたが、実際には見返りの要求は事前に声明で発表されていたケースがほとんどだ。
軽水炉2基の建設や米朝間の国交・通商関係の正常化、在韓米軍の撤退と韓国の領土内に米軍が核兵器を持ち込まないことの確約など──これらはすべて、過去数年の声明に明記されている。交渉ごとに見返りを吊り上げているように見えるが、要求の優先順位をその都度変えたり、一度引っ込めた要求を再びもち出しているに過ぎない。
自らを核実験に追い込んだ?
今回の実験については、声明を出したことによって、軍部が核実験を行わなければならない側面もあったという指摘もある。
「声明で核実験と大陸間弾道ミサイル実験を表明した時点で、北朝鮮の軍部は自らを追い込んでしまった」と、元米国務省北朝鮮分析官のケネス・キノネスは言う。「実験を行うと宣言しておきながら何もしなかった場合、軍部が赤っ恥をかくことになる。軍部は振り上げたこぶしを下ろさざるを得なかった」
北朝鮮の非核化をめざす各国政府にとっては、これ以上過激な声明文が発表されないことを願うばかりだ。