最新記事
北朝鮮 危機の深層
核とミサイルで世界を脅かす
金正日政権
ニューストピックス
ミサイル防衛は隙だらけ
日本海に配備されているイージス艦では金正日の野望はくじけない
北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記はご機嫌ななめかもしれない。3月9日、米軍と韓国軍が毎年恒例の合同軍事演習を始めたのだから。
だが将軍様が本当に不愉快に思っているのは、日本海に展開する4隻の日米のイージス艦に代表されるようなミサイル防衛(MD)システムの存在だろう。これによって、北朝鮮の威信をかけた「発射実験」が台なしにされるかもしれないからだ。
先週、北朝鮮は4月4~8日に人工衛星を打ち上げる計画を国際海事機関に通告。北朝鮮が発射するのが本当に人工衛星になるのか、ミサイルになるのかは判然としない。いずれにせよ、北朝鮮が打ち上げるものは撃ち落とすと、ティモシー・キーティング米太平洋軍司令官は2月末に警告した。
アメリカのMDシステムは、日本海に配備されているイージス艦だけではない。米海軍は世界に73隻のイージス艦を展開しており、いずれも核弾頭を搭載したICBM(大陸間弾道ミサイル)や低軌道衛星を迎撃できるミサイルを装備している。
バラク・オバマ米大統領がポーランドとチェコでの地上型MD施設の配備に難色を示すなか、アメリカのミサイル防衛戦略は今後、これらのイージス艦にゆだねられるかもしれない。
米下院軍事委員会の戦略軍小委員会の委員長を務めるエレン・タウシャー下院議員は2月の公聴会で、イージス艦を使った海上配備型MDの進歩を称賛した。「誰もが誇りに思うべき大きな成果だ。(地上型の)長距離MDに同じことは言えない」
地上配備型と違って、イージス艦を軸としたMDは、脅威レベルの最も高い場所に動かせる利点がある。実際、アメリカが日本にイージス・システムを提供したのは、北朝鮮の脅威があったからだ。
実験では成功してきたが
もともと、イージス・システムは巡洋艦を戦闘機から守るために設計された。それが長年の技術改良で射程が広がり、対航空機から対ミサイルの側面が注目されるようになった。
そこでブッシュ政権は新型迎撃ミサイルのスタンダード・ミサイル3(SM3)の開発を指示。実験では、SM3は十分な飛距離と速度によって、大気圏を出た直後のICBMの迎撃に成功した。
だが、イージス・システムが長期的に有効なMD戦略かどうかは、疑わしい部分もある。
まず、実験は敵側の対抗措置を計算に入れていないと、MDの専門家は指摘する。また、ICBMが大気圏を抜けたころには、迎撃ミサイルが弾頭と「おとり」として飛ばされた金属筒を見分けることがむずかしくなる。「石を投げると事前に警告されれば、誰でもかわせるものだ」と、クリントン政権で国防副次官補を務めたフィリップ・コイルは言う。
日本は現在、より軽くて速度があり、小回りの利く改良型SM3の開発を進めている。だが完成にはあと数年かかる見通しで、スピードもまだ必要な速度の半分程度だと、マサチューセッツ工科大学(MIT)のセオドア・ポストル教授は言う。米海軍も高速のイージス艦載型ミサイルの開発を計画しているが、予算承認もまだだ。
しかも、改良型SM3も確実ではないと、ポストルは言う。たとえ命中率が100%だったとしても、核弾頭を完全に破壊できるとはかぎらないからだ。核弾頭はミサイルの先端についており、迎撃ミサイルがその位置をピンポイントで直撃するのは至難の業だ。
仮にすきのないMDシステムを構築するとなると、いくつもの重複部分が出てくる。1発のICBMに対して、多数の迎撃ミサイルを発射しなければならない。
かえって敵をあおるMD
となると、敵側は発射するICBMを増やして対抗するだろう。「MDは、こちらが敵にやってほしくないこと、ミサイルの増産をあおることになる」とコイルは言う。「金正日が(MDを)心配しているかどうかは知らないが、(今の精度なら)その必要はないだろう」
もっとも、低軌道軍事衛星もたやすく破壊できるイージス・システムは、ある意味で完成された兵器といえる。だからといって、軍事的に大きな優位を与えるとは言いきれない。他国の衛星を撃ち落とすのはあまりにも挑発的な行為で、賢明な判断とはいいがたい。
それに衛星は15トンもある。破壊したら膨大な量の「宇宙ごみ」が散乱することに。そんな事態は、誰にとっても不愉快だろう。
[2009年3月25日号掲載]