コラム

大雪で車が立ち往生しても助けなし...「不信の国」中国のあまりにお粗末な防災意識

2024年02月20日(火)18時39分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
災害

©2024 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<春節直前の大雪で高速道路の立ち往生が発生しても、中国政府の動きは鈍い。反政府的な言論には敏感に反応するのに、災害に対するこの感度の鈍さは何なのか?>

2024年の春節直前、湖北省など中国の華中地域に15年ぶりの大雪が降った。数十万台の車が高速道路で立ち往生。地元政府は何の解決策もなく手詰まり状態で、3日以上高速道路は動かず、ドライバーは食べ物も防寒用品もない。中国版TikTokの抖音などSNS上には、助けを求める絶望的な投稿が現れ、海外にまで拡散した。

このような事件は今回だけではない。3 年前の2021年夏、河南省で発生した大洪水も天災というより人災だった。記録的な豪雨であることは分かっていたのに、地下鉄は通常どおり運行し、数百人以上の乗客が冠水した車両の中に閉じ込められた。低地にあるトンネルも通行止めにしなかったせいで、大勢の人と車が浸水したトンネルで立ち往生した。

「中国政府は無作為だ」
「中国人の安全意識は低い」

日本人を含め、この痛いニュースを知った海外の人々は、こう思うかもしれない。しかし、実はそうではない。

そもそも、安全に関しては、中国政府ほど「有作為」な政府はほかにない。中国へ行ったことがある方々は賛成するだろう。中国の街には、あちこちに数え切れないほどの監視カメラがあり、どこにでも巡回中の警察官がいる。電車や地下鉄に乗るには、日本の空港よりもずっと厳しい安全検査を経ねばならない。中国政府は安全のため精いっぱい、力を尽くしている。ただし、それは人民の安全ではなく国家の安全、つまり、共産党政権の安全のため。全ての人民は警戒すべき対象だ。

中国人の安全意識も決して低くない。中国のどの家庭にも取り付けられている面格子と防犯ドアを見ると分かる。「政府が人民を警戒する」のと似て、普通の中国人は、自分と家族以外の他人に対しても用心深く、誰も信用しない。

政府は人民を信じず、人民は他人を信じない。上は政府から下は民衆まで、この不信社会の国にとって安全意識とはほぼ「防犯」の意味であり、「防災」の意識は極めて薄い。政府に反対するわずかな言論にも素早く反応するのとは対照的に、自然災害にはいつもなすすべを知らない。

挙げ句、天災そのものよりも人災の犠牲が多くなる。

ポイント

華中地域 
長江と支流地域を中心とする江蘇・浙江・安徽・江西・湖北・湖南に上海市を加えた地域を指す。温暖多雨で平地が多く、水田耕作が盛ん。毛沢東の旧居など中国革命ゆかりの地が多い。

2021年河南洪水 
7月に中部の河南省などで起きた記録的豪雨。死者約300人。死者の9割以上は省都の鄭州市に集中していた。河南省政府は当初、死者数を99人と発表。ネットで疑問視された。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 被害状

ビジネス

アングル:中国本土株の投機買い過熱化、外国投資家も

ビジネス

スターバックス、中国事業の戦略的提携を模索
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story