コラム

「脱亜」できない日本の受難...海を渡って飛んでくる、隣国の黄砂やミサイル

2023年04月24日(月)12時40分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
黄砂

©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<地政学的な脱亜ができない日本は、これからどうやって民主主義のオアシスを守りながら、隣国の黄砂やミサイルを防ぐことができるか>

ポストコロナの北京で先日、過去最悪レベルの黄砂が発生した。その一部が風に乗って日本に運ばれ、夕刻の空がいつもより黄色く染められた。その様子を見ながら、感慨深く思った。日本はどうしても「脱亜」できないのだ、と。

「脱亜論」は明治時代の思想家・福沢諭吉が1885(明治18)年に新聞の社説で書いたものだ。その内容は以下のとおりである。西洋文明ははしかの流行のようなもので、防ぐ方法はない。ただし不幸なことに、近隣の中国や朝鮮などの国はその西洋の近代化文明を拒否し、昔のまま何も変わらない。こういった進歩を停止したアジアの隣国が西洋文明を受け入れるのを待つよりも、さっさと欧米列強の仲間に入ったほうがよい──。

近現代の日本は、確かに脱亜の道をまっしぐらに進んできた。政治体制も、科学技術も、生活スタイルも、そして論理的な思考方法までも欧米文明と抱擁する先進国になった。だが、それでも本当の意味での脱亜は一向にできていない。冒頭の黄砂はその一例だ。日本は引っ越しができない。日本がアジアのオアシスなら、隣の中国や北朝鮮など独裁政権の国はまるで砂漠のような存在である。隣の砂漠をなくさなければ、黄砂、そしてミサイルはいつでも飛んでくる。囲まれたオアシスだけがいつまでも無事でいられるはずはない。

かつて天安門広場で発生した民主化運動は、中国を専制国家という砂漠から民主主義のオアシスに変身させる絶好のチャンスだったが、残念ながら失敗した。その後、アメリカや日本を含む民主国家は対中関与政策を実施した。貿易や投資を通じて中国を欧米の価値観に取り込み、徐々に民主化しようとしたのだが、経済が飛躍的に発展した結果、中国は独裁をかえって強化した。関与政策、つまり砂漠の緑化計画は完全な失敗に終わった。

隣国の砂漠を根治できないと、黄砂はいつでもはるばる海を渡って飛んでくる。地政学的な脱亜ができない日本は、これからどうやって民主主義のオアシスを守りながら、隣国の黄砂やミサイルを防ぐことができるか。ミサイルが日本に落ちてからでは遅いのだ。

ポイント

脱亜論
1884年にソウルで起きた親日派クーデターの失敗に失望した福沢諭吉が執筆した。当時は話題にならず、1980年代に歴史教科書問題が起きるとアジア侵略の論理として注目された。

黄砂
中国語で沙塵暴(シャーチェンパオ)。中国大陸内陸部のゴビ砂漠や黄土高原で風によって巻き上げられた土壌・鉱物粒子が飛来する現象。過放牧や農地転用、森林減少が原因の1つとされる。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イランと協力拡大の用意 あらゆる分野で=大

ワールド

インタビュー:高市新首相、タカ派的言動も中韓外交は

ビジネス

金利先高観から「下期偏重」で円債買い、年間残高は減

ワールド

米ロ首脳会談、開催に遅れも 準備会合が延期=CNN
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story