コラム

中国の官僚が決してコロナ感染しない理由は? 答えは、それが「人民のため」だから

2022年09月14日(水)18時52分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国PCR大行列

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国では「リーダーたちは決して感染してはいけない」し、もし感染したら政治犯罪とみなされ処分されることになる>

外国人の官僚がもし中国で注目を引きたいなら、簡単な方法が1つある。それは街頭の列に並びに行くこと。先日、駐中国米大使のニコラス・バーンズが上海の街頭で列に並んでPCR検査待ちしていた写真が中国ネットで話題となった。愛国者の中国人たちは「ほら、アメリカ人の大使でもおとなしくPCR検査の列に並んでいる! 強いぞ! わが国!」と自慢した。

が、その高揚が一旦落ち着くと、人々はもう1つのことに気が付いた。強いわが国の官僚は街頭で列に並んでPCR検査をしているか? 答えはノー。一度も見たことがない。

3年続くコロナ禍の今、中国全土におけるPCR検査は普通の人々の生活に染み込んでいる。時間どおりに検査を受けないと仕事も、外出さえもできない。これに対して中国人の政府官僚はいつ、どこで検査を受けているのか。中国版TikTok(ティックトック)の投稿で、よくPCRの大行列を見かけるが、それは全て人民大衆で官僚の姿は決して探し出せない。

もっと奇妙なことに、中国共産党の幹部は誰もが元気で、全く感染していない。確かにアメリカのトランプ前大統領やバイデン大統領、イギリスのジョンソン前首相や日本の岸田首相も感染を報じられた。アメリカをはじめ、資本主義国家の首脳や政府官僚は感染したのに、なぜ社会主義の中国の権力者だけは感染しないのか。もしかして新型コロナは生まれながらの共産党気質で、高い政治的覚悟を持ったウイルスなのか?

もちろん冗談。本当は「リーダーたちは決して感染してはいけない」と言ったほうが正確だ。権力者の誰かがもし感染したら、政治犯罪と見なされ処分され、人生もおしまいになる。健康を保つことも政治任務の1つなのだ。

たとえ普通の人々には農薬や添加物が多い食品を食べさせても、権力者はいつも指定農場で特別栽培・特別飼育された無農薬・無添加の最高級食品の「特供待遇」を受けている。コロナ禍でのPCR検査もワクチン接種も、言うまでもなく特供待遇だろう。

彼らは「人民のため」に健康かつ長寿でないといけないと思っている。確かに14億人民を厳しく統治するためには健康が必要。長く特権を享受するため長生きも不可欠。これこそ「為人民服務(人民に奉仕する)」という言葉の真意だ。

ポイント

特供待遇
安全や健康上の理由から、共産党の指導者に特別農場で育てた野菜や肉、牛乳など食材を供給するシステム。ソ連をモデルにした。1980年代に特権と批判されたが、今も続いている。

為人民服務
共産党の有名なスローガンの1つ。1944年の毛沢東の演説から生まれた。北京・中南海にある共産党本部の正門「中華門」に、毛沢東の揮毫で大きく掲げられている。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story