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元・天才少年が耐え忍ぶ理不尽...中国政府に「都合が良かった」不幸な人生とは
©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN
<中国のネット社会で大きな話題となっている「二舅」の動画。不幸と不公平に耐えるその姿は、社会で高まる不満を和らげたい政府にとっても好都合だった>
「二舅」(アルチウ、母方の2番目のおじ)という動画が最近、中国のSNS上で話題になっている。
中国北部の農村に住む「二舅」は子供の頃から勉強が得意な村の天才少年だった。しかしある時、村のヤブ医者が打った注射のせいで片足に障害が残り、大学進学の夢も失われた。得意の大工仕事で村の人気者になったが、片足の障害のせいで66歳の今も結婚できず、88歳の母親の世話をし、それでも誰も訴えず、何の文句も言わない。
その生活ぶりを見て、大都会の北京に暮らす撮影者の「私」は癒やされた。苦労続きの二舅と比べてずっと幸せではないか......。
この話は中国政府が唱える「正能量」にぴったりで、官製メディアでも積極的にシェアされ、公開された動画サイトのbilibili(ビリビリ)では再生回数が4000万回を超えた。後に内容の間違い(二舅の障害は注射ではなくポリオが原因)を指摘されたが、今もネットで広く見られている。
ゼロコロナ政策が招いた経済低迷、企業倒産、若者の失業......そして普及したコロナ監視アプリと常態化したPCR検査が人々を精神的に圧迫している。経済と精神の貧困は社会不安を引き起こす。社会の安定のためには、二舅のような自己の不幸と社会の不公平に耐える「人生の模範」が必要だ。
人災に遭ってもその原因を徹底的に究明することなく、沈黙と我慢を美徳として謳歌することは長く「中国式」であった。2008年の四川大地震の時、「豆腐渣工程(おから工事)」の校舎によってたくさんの未成年の被害者が出ても、政府の官僚やメディアはただ「人民よ、奮起せよ」と叫んで、今なお手抜き工事について何の究明も説明もない。
もちろんするはずがない。徹底的に究明すれば、全体主義体制こそが全ての人災の根源だと人民に暴かれ、政権に対する不満と憤怒を引き起こし、最終的に政権を倒す革命が起こるからだ。
それを避けるためには、苦難を甘受する「人生の模範」が必要である。二舅のような社会のどん底に暮らし、全く発言権がない弱者の沈黙と我慢を「中華民族の美徳」として礼賛することは、政権にとって最も低コストの「維穏(治安維持)」対策だ。人民も洗脳され、ますます統治しやすくなる。
ポイント
二舅
正式なタイトルは『回村三天,二舅治好了我的精神内耗(村に帰った3日間で、おじさんが僕の精神的消耗を癒やしてくれた)』。制作者は北京在住の歴史教師。
正能量
英心理学者が著書に書いた「Positive Energy」という言葉を中国政府が採用。政府の不正などマイナス情報でなく、政府の功績やいい話を強調するキャンペーンが2013年に始まった。
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