コラム

人権無視の防疫措置をした中国で感染者が増え、甘い日本で激減する不思議

2021年11月30日(火)20時18分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国コロナ対策(風刺画)

©2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<自宅から出ていなくても近所で感染者が出ればPCR検査を受けよと警告が。「中国に学べ」という主張は正しかったのか?>

「時空伴随者」―― SF小説の題名のようなロマンチックな言葉だが、これは中国政府の新型コロナウイルス対策の1つ。健康者と感染者が同じ空間(800×800メートル)に10分以上とどまり、それが14日以内に計30時間以上になると「時空伴随者」と認定され、スマホのアプリがPCR検査を受けよと警告する。四川省成都市の「時空伴随者」は、たった数日で8万2000人を超えた。

例えば、ある感染者の自宅が800メートルの範囲内にあれば、ずっと家の中に閉じ籠もっていても「時空伴随者」に認定される。「科学的ではない」と専門家が意見をSNS上に公開したが、直ちに削除された。

ロックダウン、通行規制、住宅街封鎖、強制隔離そして広範囲のPCR検査......という全面的で厳しい防疫措置は、中国人の日常になっている。

上海ディズニーランドで感染者が1人現れると、約3万人の入園者全員がPCR検査を受けるまで帰れなかった。感染者が出た東北地方のある団地では、各戸のドアに封印紙が貼られた。ロックダウンを今年だけで5回繰り返した雲南省瑞麗市では、PCR検査を行いすぎたため、1歳半の子供が医者を見ると習慣的に口を開けるようになった。

全て政府の「零感染(感染ゼロ)」という方針に従い徹底的な対策が行われているからだ。昨年、世界各国の感染者が急増したとき、中国だけが強制手段で一時的な感染抑制に成功した。「自由や人権より命が大事。日本も中国の徹底したやり方に学べ」と考えた在日中国人や日本人も少なくなかった。

確かに、日本は感染者が1日2万5000人を超えたときでも本当の意味でのロックダウンは行わなかった。中国と比べれば、まるで仏様のように優しい「仏系防疫」だ。ところが、必死に「ゼロ感染」を求める中国で今また感染者が増え、強制措置のなかった日本の感染者数が激減している。

ウイルスは政府の強制手段で消えない。消えるのは人間としての尊厳や自由だ。文明社会の防疫は人間性を尊重しながら、ワクチンなどの科学に頼るほうがいい。「中国に学べ」と叫んでいた人たちは、いま何を思うのだろうか。世界の中国への「伴随者」は減る一方だ。

ポイント

零感染
中国政府の新型コロナ対策。患者が1人でも発生したら地区を封鎖し、大規模なPCR検査を実施。感染者を徹底隔離する。

仏系防疫
「仏系」は中国で流行するネット用語。無欲に淡々と内心の平和を求める生活態度を指す。転じて日本の厳しすぎない新型コロナ対策が「仏系防疫」と揶揄された自国産ワクチンの接種回数も20億回を超える。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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