コラム

自分たちを搾取するファーウェイCFOの釈放を「中国の勝利!」と喜ぶ人民たち

2021年10月06日(水)17時49分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
孟晩舟(風刺画)

©2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<カナダで逮捕されたファーウェイCFO孟晩舟が中国に帰国。バブル崩壊危機や大停電に苦しむ国民たちは、帰国に熱狂している>

中国各地で大停電が起きている時、「ファーウェイプリンセス」と呼ばれる同社CFOの孟晩舟(モン・ワンチョウ)が9月25日、政府チャーター機で帰国。そのニュースに全土が沸いた。

ほとんどの中国人はアメリカに勝ったと思い込み、不動産大手の恒大集団で投資に失敗した人々さえ、「彼女は海外で3年軟禁されても不屈だった。われわれは投資した住宅の建設が止まっただけだ!」と興奮した。

1996年設立の恒大集団は中国不動産業界の巨人だったが、今では借金の巨人だ。負債総額は約3050億ドルで、中国のGDPの2%。その最たる被害者は個人投資家だが、彼らは孟のような特権階級にとって、自分たちが好き勝手にできる「ニラ」でしかないことが分からない。

「割韭菜(ニラ刈り)」は中国SNSでいま最もはやっている言葉。ニラは雑草のように刈っても伸び、伸びては刈られる。中国の本当の既得権益者はお金の命脈を握る権力者と彼らにコネがあるその関係者だけ。庶民は刈られるニラでしかない。

中国の不動産バブルには、かつての日本のバブルと本質的な違いがある。中国の土地は国家所有で、売買されているのは70年間の長期使用権にすぎない。土地の使用許可はごく一部の権力者やその関係者が握っている。加えて権力者たちは簡単に公共資産を私物化し、土地価格を高騰させ、企業と結託して暴利を貪る。

中国で汚職事件が相次ぐ理由も、そこにある。今年3月、遼寧省大連市のある区の共産党書記が2714戸の住宅と142台の車を横領し、不正に集めた資産が100億元(約1700億円)に達したと記事になった。区委書記という末端レベルの権力者でさえ世界を啞然とさせる汚職を実行できるのなら......。

鄧小平は「先富論(先に豊かになれる者から豊かになる)」を唱えたが、「先に豊かになれる者」とは権力者や孟のようなその関係者だ。普通の中国人は誰でも知っているが、なぜか彼らの孟への崇拝は絶えない。

始皇帝が万里の長城を自慢するのはまだ理解できる。だがそこに夫を埋められた孟姜女(もうきょうじょ)が長城を自慢するのは、どう考えてもヘンだ。

ポイント

孟晩舟
華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の副会長兼最高財務責任者(CFO)。対イラン制裁措置に違反した疑いにより、2018年にアメリカの要請に基づきカナダで逮捕された。

孟姜女
中国の民間伝説の主人公。秦の始皇帝時代、夫が万里の長城建設の人夫として徴用され、過酷な工事で死んだ。彼女の慟哭で長城が崩壊し、埋まっていた夫の亡きがらが発見されたという。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジアが攻撃停止で合意、トランプ氏が両国

ビジネス

FRB現行策で物価目標達成可能、労働市場が主要懸念

ワールド

トルコ大統領、プーチン氏に限定停戦案示唆 エネ施設

ワールド

EU、来年7月から少額小包に関税3ユーロ賦課 中国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story