コラム

社会から「変態」と差別されても、中国LGBT団体が政府を熱烈擁護する謎

2021年07月20日(火)21時21分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
習近平とLGBT(風刺画)

©2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<かつては犯罪とされていた同性愛への差別が依然として残る中国社会だが、習近平体制の下で支援者の声は弱まるばかり>

7月6日、中国の大学で活動するLGBT団体のSNS微信(ウェイシン)アカウントが、一晩のうちに全て凍結された。政府の検閲かどうかなど、今も原因は不明だ。SNS上で抗議の声も上がったが、すぐ消えてしまった。

「性的少数者」という概念は、中国でまだ定着していない。LGBTと聞いて、多くの中国人の頭に浮かぶ言葉は「同性愛」。同性愛者は中国語で「同志」ともいう。共産党を熱愛する同士の意味だった毛沢東時代の「同志」とはもちろん違う。

1997年まで、中国で同性愛は刑法の「流氓罪(チンピラ罪)」で取り締まられていた。同年の刑法改定でやっと同性愛行為は合法化されたが、中国社会に受け入れられたわけではない。政府は犯罪者として取り扱わないが、社会は依然「変態」として差別している。

このため、若者の間で人気の耽美的な少年愛漫画や小説も「変態的」「不健康」と見なされ、検閲や取り締まりの対象になる。「わいせつ物伝播罪」で逮捕され、有罪判決を受けた作者もいる。

21世紀に入り、欧米などの先進国でLGBT文化は認められ、同性婚も合法化されるようになった。だが中国はその反対で、LGBT団体と支援者たちの声は弱くなる一方。習近平(シー・チンピン)政権の言論統制が毛沢東時代と同様の厳しさに戻ったからだが、極端な愛国・民族主義者がネットで跋扈(ばっこ)し、あらゆる欧米発の価値観を「反中国」だと告発する事情もある。

例えば今回、LGBT団体のアカウントが凍結されたとき、ネットで「団体の後ろ盾に外国勢力がいる」という主張が現れ、やがて抗議の声が消えた。自分は「外国勢力と関わっていない」と証明するためなのか、中国の同性愛者やLGBTの支援者たちは、ネットで中国政府を批判する投稿に誰よりも強く反発する。中国の特色ある「愛国的同性愛者」たちだ。

中国人や中国政府はなぜ、「外国勢力」にこんなにも敏感なのか。そもそも中国共産党は、マルクス・レーニン主義という外国製の価値観を受け入れ、ソ連という外国勢力を後ろ盾にして成立・発展してきた世界最大の政党ではないのか?

......そう考えると、外国勢力は確かに怖い存在だ。

ポイント

你是境外势力!
おまえは外国勢力だ!

流氓罪
1979年に中国刑法に追加。社会秩序の破壊やわいせつ行為など公序良俗違反を取り締まる罪だが、何が犯罪に当たるか曖昧で97年に廃止。同罪に含まれていた強制わいせつ罪や集団淫乱罪、騒動挑発罪などが独立し、同性愛は取り締まり対象でなくなった。ただ、騒動挑発罪などどのような罪状も包括する罪も残されている。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story