コラム

政府の都合に合わせて国民が子供を産む中国、少子化の先の未来は?

2021年05月27日(木)20時09分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国の計画生育(風刺画)

©2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<多いほど良い→2人っ子→1人っ子→3人っ子? 「計画生育」を続けてきた中国は少子高齢化を迎えてどう変わるのか>

「千呼万喚始出来、猶抱琵琶半遮面(呼び立てられて出てきても、なお琵琶を抱いて顔を半分隠している)」

唐代の詩人・白楽天(白居易)によるこの漢詩「琵琶行」の名句は、先日公表された中国の人口調査にふさわしい。発表が遅れただけでなく、データも矛盾だらけだったからだ。

中国国家統計局が発表した2020年までの0~14歳人口は2億5338万人。ところが、ある中国人ネットユーザーが2005~19年の15年間の出生人口を確認して20年の新生児数を算出したところつじつまが合わず、本来あるべき数字の2倍以上に当たる2819万人にも達することが分かった。

人口減少を恐れる権力者の機嫌を取るための噓ではないか──と、みんな疑った。ただし、どんなに機嫌を取ろうとしても、中国が既に人口衰退期を迎え、少子高齢化社会に入ったことは否定できない事実だ。

新中国成立直後の1950年代初め、毛沢東は「人が多いほど力も大きい」と唱え、子供をたくさん産んだ女性を「英雄母親」として表彰した。その結果、1949年に5億4000万だった中国の人口は20年後の69年に8億を超えた。70年代に入って政府は「2人っ子」を唱えたが効果がなく、79年に「計画生育」「1人っ子政策」を国策にした。

このような歴史を振り返ると、仮に若い世代の夫婦が子供を望まなければ、政府は必ず「2人っ子」「3人っ子」を強要するだろう。「1人っ子」に限らず、子どもを何人産んだらいいのか政府によって決まるのが「計画生育」だ。

少子化による高齢化も問題だ。1人っ子政策の時代、「只生一个好 政府来养老」(1人だけ産めばよい、老後の生活は政府が面倒を見る)というスローガンがあったが、今は「养老不能只靠政府」(老後の生活は政府ばかり頼りにするな)に変わった。中国政府は「孝」という伝統的価値観を利用し、本来は政府が持つべき責任を若い世代に転嫁し始めている。

「もし中国の人口ボーナスが消えたら未来はどうなるのか」と懸念する中国人がいるが、その前に独裁者の使うさまざまな洗脳・宣伝教育や強制的な政策を心配するのが先だろう。

ポイント

停下来!
现在要鼓励他们生孩子啦!/计划生育/老龄化社会
止まれ! 今は彼らに子供を産んでもらわないといけないんだ!/計画出産/高齢化社会

中国の人口ボーナス
人口ボーナスとは生産年齢人口に対する従属人口(子供と老人の合計)の比率が低下し経済成長を促す状態。中国は生産年齢人口の15~59歳が63.35%となり、従属人口の36.65%との比率が人口ボーナスの目安の2倍を切っている。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story