コラム

ロシアを非難しつつ過去の誤りは認めない...バイデンが広島で向き合うべきだった原爆投下の正義

2023年05月24日(水)11時25分

原爆死没者慰霊碑に献花した岸田(左)とバイデン(5月19日) SUSAN WALSHーPOOLーREUTERS

<G7サミットでバイデンはスルーしたが、原爆投下の評価について米世論は大きく変わってきている。将来、米大統領が謝罪する日が来ても驚かない>

今回、岸田文雄首相が議長を務めて広島でG7サミットが開催されたことには、大きな象徴的意味を読み取ることができる。1945年の夏に広島に投下された原爆による死者を親族に持つ岸田が日本の首相になり、いま世界の民主主義国を結集して、ロシアによるウクライナ侵攻と核の脅しに対抗する先頭に立とうとしているのだ。

良識ある国際政治専門家は例外なく、広島で起きた悲劇に言及し、核兵器の不使用を訴えている。しかし、この議論で避けて通れないのは、広島への原爆投下を決めた当時のトルーマン米大統領の判断をどのように評価すべきかという問題だ。

原爆投下の決断は正しかったのか。

私が子供時代を過ごした90年代のワシントンでは、ひょっとするとトルーマンの判断が間違っていたのかもしれないという可能性を考えるだけでも冒瀆行為のように思えた。学校では、平和主義者である歴史教員たちですら、そのような議論を許さなかった。

原爆投下は、第2次大戦をようやく終わらせたアメリカの勇気と強さの表れと位置付けられていた。広島でバイデン大統領がアメリカを代表して原爆投下について謝罪することはなかった。しかし、将来のアメリカ大統領が謝罪する日が来たとしても私は驚かない。原爆投下という行動に関するアメリカの世論は大きく変わりつつある。その変化は、今後も続くだろう。

45年の時点では、アメリカ人の85%は、広島と長崎への原爆投下を正しい行動だったと考えていた。しかし、2015年には、その割合は56%まで低下している。原爆投下は正当ではなかったと回答した人も34%に達した。

どうして、このような目を見張る変化が起きたのか。その要因は年長世代の死だ。旧世代が世を去るのに伴い、原爆投下の決定を支持する人はさらに減り続けるだろう。15年の調査によれば、第2次大戦時の日本への原爆投下を支持する人の割合は、30歳未満のアメリカ人の間では47%にとどまっている。

原爆投下の決定を支持する人は際立って減少しているが、その一方で原爆投下について謝罪することを支持する人の割合が同様のペースで増えていないことも事実だ。いまだにアメリカ人の73%が、正式な謝罪を行うことを支持していない(それを支持している人は20%)。

アメリカのダブルスタンダード

しかし、私が中学生だった30年前とは、アメリカの学校の歴史教育の在り方も変わっているようだ。大学の教え子たちに、トルーマンの原爆投下の決定について学校でどのように教わったかと尋ねたところ、最近の学校では、このテーマについて生徒に議論させるという。自分が指導者だったらどのような決断を下すだろうかと考えて、原爆を落とすという悲劇的な決定以外の選択肢を選ぶ生徒も多いとのことだ。

広島に集まったG7諸国の首脳たちは、ウクライナの政府に降伏を迫る手段としてウクライナの一般市民を攻撃するロシアの残忍な行動を非難した。それでは、第2次大戦で日本政府に降伏を迫るために、軍事施設ではなく都市を攻撃の標的にした当時のアメリカ政府の決定も、同じように厳しく非難されるべきではないのか──。

こうした疑問は決して突飛なものではない。アメリカの情報機関の総本山であるCIAが掲げるモットーの1つは、「真理は自由をもたらす」だ。このモットーに従うのであれば、かつて民主主義国の指導者が下した決定によって途轍もない破壊がもたらされた地で、世界の主要な民主主義国の指導者たちが会合を開いた機会に、大統領が過去の政府の判断の誤りを認めるべきだったのかもしれない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

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